昭和基地での大晦日(vol.71)

昭和基地での大晦日。

今日は午前までには業務を終える、いわゆる半ドン。
快晴でほぼ無風のこの日をねらって、観測系のビックプロジェクトの一つが実施された。
(このことについては、また後日、ぜひご紹介しなければと思っている。)
その後、環境保全隊員のかけ声によって昭和基地クリーンアップ作戦を行い周辺のゴミを集めた。

午後からは、集めたゴミの集積に取り組む。
また、機械車両担当隊員の提案によって使用車両およそ10台のトラックをみんなで洗った。
設営隊員たちの手によってしつらえられたのは、こちらの鐘つき堂と門松だった。
そういうみんなの姿をみているうちに、
しだいに、自分の身も心もきれいになっていくような気がしてきた。
さらに、調理隊員たちは、
今日も年末の特別メニューを用意してくれていた。
食堂には「アディオス2012! カモン2013!ウエルカム」などというにぎやかな垂れ幕も飾られていた。
新年を迎える準備が整った。

夜も更けて、午後11:00頃になった。
といっても真昼のように明るいのだが。
その頃になって隊員たちがぞろぞろと第一夏宿の鐘つき堂の前に集まってきた。
ご〜ん、ご〜ん、ご〜ん。
南極でも除夜の鐘がはじまったのだ。

「今年こそ、オペレーションが無事全部できますように!」 ご〜ん
「全員、けがや病気をせずに帰れますように!」 ご〜ん」
「家族が元気でいてくれますように!」 ご〜ん
いつの間にか、一人ずつお願い事をいってから鐘をつくというルールになっていく。

わたしも一つ、鐘をつかせてもらう。
「日本中の少年、少女の健やかな成長を願って!」 ご〜ん

それではみなさま、
旧年中はご愛読いただきありがとうございました。
新年も(明日からも)
引き続き「南極兄弟」をよろしくお願いいたします。

よいお年を。

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外出注意令(vol.69)

南極昭和気象台の予報的中。
瞬間最大風速は35mを超えた。

強風の到来は歓迎できないが、
それを2〜3日前から予報し、
見事的中させる気象チームはさすが。

彼らによれば、
強風のピークはまだ先のようで、
今から約6〜7時間後の真夜中が
もっとも警戒が必要な時間帯だという。

早速、越冬隊長の指揮のもと
朝の人員点呼、集団での移動、各作業へのKY意識の強化などが指示された。
一方、各隊員は
それを緊張感と切実感をもって受け止め、責任ある行動に努めた。

もっとも、窓の外の様子を見ただけで、
これが普通でないことはすぐにわかった。
私は学生のころはスキー部のはしくれで、
スキー場の頂上で吹雪かれ、
冷たい空気の痛みを感じながら何時間も練習した口だが、
ここ南極でも、自然の猛威を改めて実感した。
自然に逆らってはならないのだ。

どっしり構えていても風にあおられて足下がぐらついたり、
風上に正面向いて歩けないというのは
おそらくこれが初めてのことだと思う。

越冬経験者によれば、冬のブリザードの場合は、
この強風に加え、低温、積雪、視界の悪さも加わって
たいへんなことになるという。

今も、窓の外から、
ゴーゴー、ぴゅーぴゅーという音が聞こえる。
それはまるで、
氷の大陸を這いつくばうように流れてきた地球の息づかい。
この音が、
私が体験した2つ目の「南極の音」となった。

(1つ目の「南極の音」はアーカイブス12月15日(vol.55)を参照)
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ブリ対策(vol.68)

南極昭和基地気象台によれば、
明日はブリザードを想定した対応が必要だという。

現在、午後11:30。
にわかに風が強くなってきた。
風速は12mを越えた。

ブリザードのような強風がふくと、
外出注意令、または、外出禁止令が発動する。
今晩のうちに隊員たちは
それぞれの宿舎で1日をすごせるように非常食を確保したり、
明日の朝の人員点呼の要領を確認したりしたところ。

実は、我々隊員は、第一夏宿と第二夏宿というところに分かれて住んでいる。
私の場合は「第2夏宿」の住人なのだが、
そこには水道もトイレもない。

(でも、通常は、約200m離れた「第1夏宿」ですべて済ませるし、
 飲料水はポリタンクで常備してあるし、
 給湯器があってお湯でお茶やコーヒーも飲めるので
 案外、快適である。)

ただ、普段はそれほど不自由がなくても、
天候が荒れると、話は別である。
いつも歩いているわずかな道のりでも危険になるという。
万が一の場合にはしっかりと備えておかなければならない。
その一つがこの通称トラロープ。
もしも屋外にいて吹雪や強風になってしまった場合、
このロープを伝っていけば必ずどこかの宿にたどり着くようになっている。
FA(フィールドアシスタント)隊員がまず設置、確認、補修するのがこれだ。
隊員たちの命綱、ライフロープである。

ちなみに、この写真は、
ほぼ真夜中の12:00に撮影。
最近は毎晩この明るさ。”… 続きを読む...

ゾンデ放球のさじ加減(vol.63)

今日は、快晴の昭和基地。
昨日、ひょんなことからお知り合いになった53次越冬隊の気象隊員から、
「明日にでもゾンデ放球は可能ですよ」とお話をいただいた。
翌日の今日、予約を済ませ気象棟に行ってゾンデ放球を試みる。

ゾンデとは、気象庁隊員が
第1次隊から継続している伝統的な大気観測の一つ。
ヘリウムガスで膨らませた気球に、
データを取って送るゾンデをぶらさげて
約30km上空まで飛ばすという。
その速さ6m/秒。

そんな一連の説明を受け、さっそくゾンデを放球。
ゾンデは無事、大空に舞い上がっていった。
この日は、ちょうど太陽の周りに虹ができるハローが見られ、
その虹の輪の中を通り抜けるように気球は舞い上がっていった。
それが小さくなって見えなくなるまで見上げていた。

さて、この気球につめるヘリウムガスの量はどのように決めているかな?とふと思った。
注入した気体の量で決めるのか、
膨らんだ風船の大きさできめるのか。
実は、浮力で決めていたのだ。
ガスを充填しながら、風船の下に1800gのおもりをつけ、
それがふわっと浮き上がったときが充填完了の合図。
そういうことは、放球の準備から経験して初めてわかることだった。

ゾンデを放球したあとは、
オゾンホールの発見につながった観測部屋ものぞかせてもらった。
4畳半程度の狭い部屋の中で大発見があったのかと思うと
研究の華々しさと地道さを感じずにはいられなかった。

夕食後、54次の気象隊員と話をした。
その中で、こんな言葉があった。
「ゾンデは浮力1800gで飛ばす、確かにその通り。
 でも、風が強ければ、できるだけ早く一定の高さに送るために浮力350g…
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