デルタアンテナ設営(vol.61)

昨日の夜は、真夜中になっても寝付けなかった。
それは、やや興奮気味だったせいもあるが、
百夜の南極では、真夜中の12時をすぎても、
まるで昼間のように明るいのだ。
部屋の窓が開いていれば、電気をつけなくても
字を書いたり、ものを探したりすることは難なくできる。
朝、目覚めたときは、
昨日寝たときと同じ明るさの風景だった。

さて、今日の作業は、デルタアンテナの設営。
今回建設するデルタアンテナは、
高さ40mの支柱を中心にして三角の形にアンテナを張ったもの。
1本のアンテナを立てるためには
その周囲に高さ約5m〜7mの支柱を4本立てなければならない。
今日は、そのうちの2本を立ち上げることができた。
これも、設営系の現場監督の指示のもと安全第一で作業できたおかげ。
はじめはなれない作業も多く手間取っていた隊員たちも、
プロの現場監督さんたちが注意深くサポートしてくれるため、
その手際はどんどんよくなっていった。

ここでは、みんなで協力し、
すべて手作りでものを作り上げていくしかないのだ。

遠くでは、ペンギンたちの姿も見え、
少々疲れ始めた隊員たちに元気をくれた。
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リュツォフォルム湾定着氷域 (vol.55)

昨日、しらせが流氷縁に到達したと書いたばかりだが、
昨夜、しらせは予想外のはやさでその流氷域を通過した。
流氷域の突破には普通は数日かかるのだが、
JARE54では、ほぼ1日で抜けたことになる。

それは同時に、定着氷域に進入したということ。
リュツォフォルム湾定着氷域だ。

ここまで来ると、帰りの航海まで
しばらく海面を見ることはない。
ずっと、真っ白な世界があるだけだ。

ほどなくして、
しらせはファーストラミングを試みる。
定着氷で船が進めなくなると、
一旦、来た道を100m〜200mほど後進し、
再び勢いをつけて砕氷しながら進んでいくのだ。
3歩進んで2歩下がる、という感じ。

砕氷航行中は、常にゴッゴッゴッゴッゴッという振動が伝わる。
時折、
ゴリンゴリンゴリンッ(非常階段からドラム缶を転がしたような音)、
バリバリバリバリッ(地下鉄が突然トンネルの中に入ったときのような音)
ジャバジャバジャバーッ(嵐の森で強い雨と風にうたれて揺れる木々の音)
という、なんとも言いようのない”ものすごい音”が響くことがある。
そんなときは、隣の隊員と会話することすらできなくなる。
この、海に厚く張り詰めた氷から出てくる”ものすごい音”が、
おそらく、私が聞いたまず最初の「南極の音」だと言えるだろう。
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