つくし

2の1は、
連日、春の小包が配達される
ちょっと不思議で、とてもすてきなクラスだ。

ホタルイカ、ふきのとうにつづいて、
チューリップやゼンマイ、ヒメオドリコソウなどなどが、
小さな手に握りしめられて届けられている。

そんな中、ツクシが相次いで届けられた。
一つは、ツクシとスギナが地下茎でつながったまま届けられた「ツクシセット」。
もう一つは、ツクシが袋にぎっしりつまった「ツクシ100本セット」。
おかげで、しばらくはツクシ談義となった。

ツクシは漢字で「土筆」と書くことがあるが
確かに形はどこか筆に似ている。
この中には種のかわりに「胞子」が入っていて
仲間をふやしていく。

すぐお隣にあるのはスギナ。
ぜんぜん違うもののようにみえるけれど、
実は地下でつながっている。
人間界では、
抜いても抜いても、
地下茎がのこっているから
次々と生えてくる手強い雑草というレッテルがはられている。

と、黒板に図を描いていると。。。
「先生、えがうま〜い」(いや、適当に描いたのでおはずかしい。。。)
「先生は図工の先生だ」(小学校の先生は全部するよ。。。)
「違うよ、理科の先生だよ」(2年生には理科はないんだけれどね。。。)
「理科の先生は、えがうまいんだよ」(そういう法則はないと思うけど。。。)

(やんや、やんや)

どうも本題がどうでもよくなってきたようだった。
それでも、次のつぶやきが、
脱線しかけた話題を見事に元に戻した。

「先生、ツクシとスギナは、親子みたいだね」
「それなら、どっちが子どもなの?」

こんな問いを自ら持てるなかまたちが
とてもすてきに思えた。
何気ない身の回りのできごとにアンテナを張り巡らせ、
小さな疑問を解決していこうとするみんな。

たくさんのつくしは、もうすぐ姿を見せなくなるが、
かわりに、緑のスギナがあとでどんどん伸びてくる。
太陽の光をいっぱいに浴びて。

きっとみんなも、
春から夏へと、
大きく成長するに違いない。

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アゲハ誕生

昨年度担任していた教室で、
秋にアゲハの幼虫が持ち込まれたことがあった。
間もなく冬で寒くなるので、
幼虫もきっと、早くさなぎになりたかったことだろう。
案の定、
教室に持ち込まれて虫かごに入れてすぐに、
それはさなぎになった。

あれから特別おせわをしていたわけでなく、
教室移動の時にわすれないように
一緒に移動させていただけだった。

新しい年度になったある日、
「先生、アゲハが成虫になりました!」
と数名の子どもが息を切らして報告にきてくれた。
さっそく見に行くと、
小さな虫かごの中でアゲハは、
やや小振りだが、
美しい羽根を広げてたたずんでいた。

「きれいだね〜」
「ちゃんといきていたんだね〜」
小さな虫かごの回りで
みんなで頭をつきあわせて覗き込んだ。

「そうだ、蜜をあげよう」
テイッシュペーパーに砂糖水をしみこませて与えた。
鉢の花も入れてやっていた。

私はしばらくその場を離れていたが
戻ってきてもなお、その場でじっと観察していた。
「先生、アゲハくん、
 口からストローをのばして蜜を飲んでくれたよ。」
と満足そうだった。

理科の目標に
「自然に親しみ,見通しをもって観察,実験などを行い,問題解決の能力と自然
 を愛する心情を育てるとともに,自然の事物・現象についての実感を伴った理解
 を図り,科学的な見方や考え方を養う。」という文字が躍るが
つまりは、こういう子どもを育てるということなのだろう。

こういう子どもは、
ドリル学習や指導方法の法則だけでは育たない。
教育という営みは、
今したことがすぐに結果にでることをねらいとするのでもない。

こんな瞬間に、
こんな姿に、
間近で触れて教育ということを真に学ぶことができるのは、
担任の特権と言えるかも知れない。
 …
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感謝と感服

おにごっこ中にけんかが起きたらしい。
聞くと、
タッチされたのに捕まるのを拒む。
タッチされるとやあめたと言う。
などなど。

この目で見ていないので真偽のほどは定かではないが、
子どもの一つの言い分としてはこうだった。
相手の側も、
大筋ではそれで納得しているので、
大方そういう場面があったのだろうと想像される。

大事なのは、
そんな「悪者」を割り出すことではない。
いろんなことが巻き起こる学級の出来事から、
「価値あるもの」を一つでも導き出すことの方が大事だろう。

まずは、みんなの言い分を十分に引き出すことが鉄則。
すると、ヒートアップしていた気持ちも、
少しずつ、クールダウンしてくるのだ。

そのうち、
「やあめた、って言いたくなる気持ちはわかるんだけどね。。。」と、
相手の立場に理解を示す発言が出てきた。

すると、そのすてきな言葉に触発されるように、
「うん、ぼくも本当はみんなと遊びたいのね。だから。。。」と、
共によりよい関係を築いていこうとする発言が出てきた。

そして、極めつけに、
「ルールを守れる人になりたい」と、
相手への願いとも、自己決意ともとれる意味深長な発言が飛び出した。

「ルールを守れる人になりたい」
こんな価値を導き出すきっかけとなったおにごっこでのトラブルに感謝。
「ルールを守れる人になりたい」
こんな価値を導き出した2の1の仲間たちに感服。…
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ホタルイカ

入学式で学校が華やかになる朝、
2の1では、もうひとつのにぎわいがあった。
富山湾の春の風物詩のひとつ、ホタルイカが届けられたのだ。

聞くと、家族で夜の海にでかけ、
神秘的に光るホタルイカをとってきたという。
その感動をみんなと分かち合おうと
保冷剤でつつんで大切にもってきたようだった。
登校してくるまで、さぞ、わくわくしてきたことだろう。

案の定、2の1は大歓声に包まれた。
そして、そこから、しばしホタルイカ談義が展開された。
ホタルイカはねホタルみたいに光るんだよ。
魚津とか滑川でとれるんだよ。
ぼく、食べたことがあるよ。

みんなの席に順々に回っていくホタルイカを
みんなは食い入るように観察した。
普段、食卓の上やスーパーの陳列棚で見かけているはずなのに、
教室という空間で見るそれは、
全く新鮮な光りを放っているから不思議である。

学校で友達ともに学び合うということには、
ときどき、そんな見えない力が働くことがある。
国語でも、算数でも、図工でも、音楽でも。。。

そんな、学校で学ぶことの意味を再確認した入学式の朝、
すぐ隣の教室では、
新1年生たちがこれからの小学校生活に夢と希望を膨らませていた。…
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