海洋観測開始

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの14回目。
(写真は54次隊のときのもの)

しらせがフリーマントルを出港したため
しばらくの間、55次隊員たちは、
ネット環境からも遠ざかることになる。
できるのは、一人あたりに割り当てられた
数メガのメールのやりとりのみ。
画像添付となると、相当小さいサイズのものでない限り
送ることはできない。

したがって、
55次隊から発信される情報は激減することになるが、
もちろん何もしていないわけではない。
南極観測隊の任務は、
出港直後からすでに始まっている。

まず、みんなで取り組むのは海洋観測だ。

毎朝7:20、協力隊員は身支度をして
4観と呼ばれる観測室に集まる。
そこから船尾につながるハッチを出て、
人員点呼と本日の作業確認を行ったのち観測が開始。


表面バケツ採水、ノルパックネット、CTD、XCTD、CPRの投入、
といった観測が、次々と行われていく。
とはいうものの、観測隊は、いろんな専門分野の集まり。
海洋観測の各部門には、その道の専門家がそれぞれ約1名程度いるだけだ。
隊員たちは、リーダーの指示に従って徐々に仕事を覚えていく。
風が吹き、気温が下がり、船が揺れるなかでの作業だったが、
生まれて初めて取り組むことも多く、毎日がとても新鮮だった。

55次隊もおそらく、
午前中は、ほぼ毎日、こうした海洋観測を行い、
午後からは、講習会や各部門ごとのミーティングを行っているだろう。

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出港の日

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの13回目。
(写真は54次隊のときのもの)

出港していく船を見送るときというのは、
なんとも言えないセンチメンタルな気分になってしまうものだが、
出港していく船の上で見送られる方も、
なんとも言えない微妙な気分になるということを、
この日、初めて知った。


今頃は、55次隊のみなさんは、
見送りの方々に大きく手を振りつつ、
離れゆく大陸の光景を目に焼き付けつける一方で、
次に訪れる南極大陸に思いを馳せているに違いない。
そして任務を果たす決意を
静かに胸のうちに秘めるのである。

こういうときは、
あまり先を考えすぎない方がよいらしい。
やるべきことの多さや、
果たすべき責任の大きさが気になり始めたら、
そんなときこそ、
「目の前のことを一つ一つつぶしていく」(副隊長談)、という。

まさに、往路のしらせの中はそんな感じだった。”… 続きを読む...

パース日本人学校との交流

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの12回目。
(写真は54次隊のときのもの)

フリーマントル滞在中には、
こんな交流イベントもある。
パース日本人学校の児童や保護者が
やってきてくれるのだ。


日本人学校の子どもたちにとって年に一度の「しらせ」の寄港は、
日本の人や文化に直接触れることができる貴重な機会の一つとなっている。
船に乗り込めば、
船員さんたちや隊員さんたちから
南極観測の目的や苦労、喜びなどを直接聞くこともできる。
船内のてっぺんにある艦橋から、
食堂や床屋さんなどといったちょっとめずらしい場所まで見学することもできるのだ。

この交流は、しらせの乗員側にとってもプラスとなっている。
子どもたちは、
仕事の都合などで海外で暮らすことになり、
きっと苦労も多いだろう。
にもかかわらず、それを乗り越えて、
現地のコミュニティーでがんばっている。
そんな彼らの姿は、
これから南極へ向かう我々に大きな勇気や励みをもたらしてくれたのだ。

55次隊のフリーマントル滞在は、
たしか今日が最終日。
いよいよ、ここを出港する日がやってきた。
目指すは、南極、昭和基地。

祈 ご安全 祈 ご健闘

酔い止め薬は、早めの服用がよかったですよん。
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規律正しい生活

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの10回目。
(写真は54次隊のときのもの)

今頃は、55次隊のみなさんは、
ぶじ、しらせと合流したことだろう。

しらせに乗船すると、
いやがおうにも心が高揚するものだが、
そんな気持ちをおさえつつ
まずは、ここに集まって
乗船説明を受けることになる。


ここは「観測隊公室」と呼ばれる部屋で、
毎日の食事をとる食堂でもあり、
全員集まって行うミーティングルームでもあり、
出入国手続きや、場合によっては選挙なども行う会場でもあり、
しらせ大学(往路)や南極大学(復路)などの特別講義が開催される教室でもあり、
剣玉の練習をする道場(?)でもある。
隊員が奏でるjazzの生演奏に耳を傾け、南極横断ウルトラクイズにみんなで興じたのもここだっけ。

話をもとにもどそう。
しらせの中の生活というのは、たいへん規律正しい。
 5:45〜 人員点呼(6:00には報告完了)
 6:05〜 朝食
11:35〜 昼食
17:35〜 夕食
18:00〜 全体ミーティング
19:20〜 巡検
       *巡検前30分くらいから巡検終了20:00くらいまでは部屋から1歩も出てはいけない。
洗濯と入浴は23:00まで
と、いった具合。

食事の時間がちょっと早い感じがするが、
実際は、この10〜15分前から並び始めるので、
この時刻には食べ終わっている隊員もいる。

これらのルールは、みんなの総意によって日々少しずつ変化が加えられ、
しだいに、その隊次に応じたものになっていく。
さて、55次隊のみなさんは、
どんな生活を創りあげていかれるのだろう。”… 続きを読む...

ハカランダの微笑み

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの9回目。
(写真は54次隊のときのもの)

冬の気配が感じられる成田を
元気に飛び立った55次隊。
彼らがまず向かうのは、
しらせの待つオーストラリアフリーマントル。
そこは、今まさに初夏を迎えているころ。
空港から港に向かうバスの車窓からは、
咲き誇るハカランダの花が見えていることだろう。


このハカランダ、
日本でいうところのサクラのような存在で、
この時期になると、
示し合わせたように一気に咲きはじめ、
満開を迎える。

今年も、きっと、ちょうど見頃になっているのではないだろうか。

これから南極で活動するみなさんにとっては、
美しい草花や風に揺れる緑を見るのは、
しばらくお預けとなるのだが、
街中のハカランダたちは、
まるで、そのことを知っているかのように、
隊員一人一人に明るく揺れて
エールを送ってくれるのである。”… 続きを読む...

積み込み作業

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの8回目。
(写真は54次隊のときのもの)

フリーマントルでの積み込み物資の中で、
前述のヘリコプターはちょっと特別だが、
食料関係もかなりの量を積み込む。


野菜や果物や牛乳など、
3度の食事にかかわるもの。
ジュースやお菓子やビールなど
3度の食事ほどではないが、ある意味重要?なもの。
それらを、隊員総出で一つ一つ積み込んで行く。


個人消費の食材は、各自の船室に運び込む。
その作戦は、原始的だが、バケツリレーだ。
隊員たちが長い列を作り、
読み上げられた部屋番号の前まで
一つ一つ手渡しで流し込んで行くのだ。

安全第一の観測隊では、
こういう作業時は、
ヘルメット着用、皮手袋着用、が常。

そういえば、55次隊のヘルメットの色は何色なんだろう?
53次隊はオレンジ、
54次隊はグリーンだったけれど。

さあ、いよいよ明日、
55次隊のみなさんは成田を発つ。
ここにバーチャル同行シリーズをしたためながら、
ずっと応援していきたい。
そして、昭和基地に降り立ったなら、
54次隊の越冬隊のみなさんに、よろしく!!”… 続きを読む...

パドル

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの7回目。
(写真は54次隊のときのもの)

55次隊の砕氷航行は
かなり困難な道のりとなるだろう、
そう予想されている。

我ら54次隊のときも、
南極周辺の定着氷の映像などの情報から、
昭和基地への接岸は厳しいかもしれない、
そう予想されていた。
実際、54次は厚い氷に阻まれ、2年連続の「接岸断念」となった。

しかし、いつも最悪の状態を想定しておくのが南極観測隊。
接岸不能は、ある意味、想定内だったとも言える。

ただひとつ、これは想定外だったと言えることがある。

それは、接岸不能になるほど氷が厚くてガチガチなのなら、
最後は、氷上輸送で物資を昭和基地まで運ぶことができる、という想定だ。
20〜30km離れた場所からの氷上輸送ならば、過去に実績もある。


ところが、だ。
54次隊では、昭和基地から約30kmの地点で厚い氷に阻まれたのに、
昭和基地に近い海氷では氷が溶けてゆるみはじめているというのだ。
昭和基地で越冬していた53次隊の隊員たちが
昭和基地側から安全なルートを模索してくれていたが、
雪上車を走らせるには危険な状態だった。
(54次隊 昭和基地周辺の状況 水色に見えるのが溶け始めたパドル部分)

つまり、
昭和基地への接岸が不可能な上に、
氷上輸送もできない、という「想定外」の状況になってしまったのだ。
南極観測に必要な燃料や物資を運び込むには、
もはや、ヘリコプターによる空輸という手段しかなかった。

今回の55次隊で、
しらせに搭載されるヘリのサイズがややアップされたのには、
そうした背景があるのだろうと思う。
地球の果ての極域観測だからこそ、
55次隊も、
最悪のケースを想定して行動している。”… 続きを読む...

ヘリの搭載

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの6回目。
(写真は54次隊のときのもの)

フリーマントルから先は、
しばらく文明社会とお別れ。

隊員たちは、
南極に行くまでに「やり残してきたこと」を
少しでも減らしておこうと最後のあがきをする。

街には、
買いそびれた小物を調達する隊員がいたり、
今のうちにおいしいデザートやコーヒーなどを味わっておこうという隊員がいたり、
生野菜やフレッシュなフルーツを意識して食べるようにしている隊員がいたり、
インターネットに接続してできるだけ”普段通り”の生活を楽しもうとする隊員がいたり。

「しらせ」の乗組員たちや輸送担当の隊員たちともなると、
それはかなり切実である。
物資の積み込みが、架橋を迎えているのである。

たとえば、南極観測に力を発揮するヘリコプターの搭載。

54次隊の場合は、
日本から搭載してきた大型ヘリ1機(CH101)の他に
2機の小型ヘリがここで積み込まれたのだが、
これら合計3機のヘリは、
昭和基地での人員輸送や物資輸送にフル回転の活躍だった。

55次隊の場合は、
日本から搭載していく大型ヘリ1機の他に
1機の小型ヘリと1機の中型ヘリがここで積み込まれるようだ。
輸送能力はアップされている。

これにはある事情があるようだ。

“… 続きを読む...

フリーマントルでの過ごし方

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの5回目。
(写真は54次隊のときのもの)

隊員たちは、しらせに寝泊まりしながら
ここフリーマントルで数日を過ごすことになる。

しらせが停泊している港の正面には、
小さな鉄道の駅があって、
そこが、大都市パースからの終着駅ともなっている。

その周辺は、いかにも終着駅のある街らしい佇まいで、
小さな広場があったり、
細い路地におしゃれなカフェが開いていたり、
心地よい海風が通り過ぎるハーバーがあったりする。
地図がなくても、小1時間も歩けば、
だいたい様子がわかってくるサイズのようだ。

しばらく、気分のおもむくままに
そぞろ歩きでもしたくなりそうなところなのだが、
しらせが出航してしまうと
パソコンでネットができなくなってしまうことから、
隊員たちの多くは、
まずはインターネットが使える場所を見つけるために
そそくさと街に出ていく。

家族に最後の連絡をとったり、
日本の同僚に仕事の続きを依頼したり。

それらを終えた隊員たちは、
もうしばらく、こんなふうに夕涼みをしてから、
しらせの中の寝床にもぐりこむ。

これから南極へ向かう隊員たちの
一人一人の心をそっと休ませてくれる
こんなフリーマントルの街は、
だから、南極への最終寄港地に
なっているのかもしれない。”… 続きを読む...