ラミング

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの25回目。
(写真は54次隊のときのもの)

定着氷を突き進むしらせは、
しだいに、
1日の航行距離が伸びなくなっていく。
氷の厚さが増していくために、
体当たりをしてもきかなくなってくるのだ。

そんなとき、しらせは、一度止まって、数百メートルほどあともどりをする。
それから再び前進し、勢いをつけて氷に立ち向かっていく。

すると、さっきまでは割れなかった氷が見事に割れ、
その氷を砕きながらしらせは前進していく。
これを、チャージングとか、ラミングという。
54次隊でおよそ1000回、多い隊では2000回ものラミングを繰り返し、
少しずつ、少しずつ南極へと近づくのである。
この日は、めずらしく快晴となり、空には大きな虹の輪がかかった。
ハローだ。

そのラミングの効果も長くは続かない。
最後は、一度のアタックで数十メートルしか進めなくなってしまうのだ。

だが、それは、
昭和基地がもうすぐそこになったことの証でもある。
55次隊の昭和入りもまもなくだ。
54次越冬隊のみなさん、初荷はもうすぐそこ!

というか、もう、着いてる!?”… 続きを読む...

定着氷を進む

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの24回目。
(写真は54次隊のときのもの)

54次隊では、しらせは、
なんと1日でこの流氷域を通り抜けた。

流氷域を抜ける、ということは、
そこから先は、もう定着氷しかない、ということである。
海一面が凍りついているという信じられないような光景が
ただひたすら続くのだ。
しらせは、この定着氷を、力強く割りながら進んでいく。
氷の厚さは数メートル。
船内には、氷が割れる音がけたたましく響いている。

船尾に行ってみると、そこには
しらせが割り進んできたあとがくっきりとついている。

割れた氷は、すぐにまたくっついて
来た道を閉ざしてしまっている。

誰もよせつけない雰囲気が
いやでも伝わってくる。

ところが、陽が傾き始めると、
あたりの様相は一変する。
夕焼けが、空を真っ赤に染めていくのだ。
極域の夕焼けは、とりわけ赤く染まるのが特徴だ。

その様子に引き込まれて、どのくらいたったろうか。

ふと気がつけば、
いつの間にか、しらせは
すっかり夕日に包まれてしまっていた。

こんな夕日、見たことがなかった。

“… 続きを読む...

流氷縁に到着

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの23回目。
(写真は54次隊のときのもの)

昨年の12月14日、
54次隊の私たちはついに流氷縁に到着した。
見渡す限り、流氷で覆い尽くされた場所。
ついに氷の世界にやってきた、
そんな実感がこみ上げてきた。

流氷が船体にぶちあたっては、
ななめ後方に流されていく。
そんな光景を何度も何度も繰り返し見つめた。

まもなく、その国の住人たちが、
私たちを出迎えてくれた。
私たちがここにくる何年も前から、
ここで生き、たくましく生命をつないできた住人たちだ。

「こんにちは」
「しばらくここにおじゃましますね」
そんな言葉が口をついて出てきた。
むこうも心得たもので、
「今年もやってきたのか」
「ここから先はぼくらに任せて」
そう言っているかのようだった。

このあとも
流氷縁にたどりついたしらせは、
なおも力強く南極を目指した。
頼もしい応援団を携えながら。

次はいよいよ、定着氷縁への突入だ。”… 続きを読む...

しらせ大学

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの22回目。
(写真は54次隊のときのもの)

12月13日、54次隊では
「昭和基地入り直前講習」なるものが行われていた。
予定では、この後、約1週間ほどで
しらせでの生活から昭和基地での生活になるのだ。

55次隊のみなさんも、今頃は、
日々の打ち合わせに熱が入ってきていることだろう。

昭和基地入り前の慌ただしい中ではあるが、
しらせ内では、そんな午後のひとときを
「しらせ大学」で過ごすことができる。
観測隊の隊員が特別講義を行ってくれるのだ。

どの隊員も、その道の最先端をいく方々ばかりなので、
その講義の内容はとびきり上等である。
連日、講義会場の観測隊公室は
満員御礼、立ち見が出るほどだった。
私も、少々揺れる船内で立ち見をしながら拝聴した口だが、
ほとんど苦に感じることなどなかった。
極域の研究に対する深い情熱にいつも圧倒され、
昭和基地への思いが募った。

この「しらせ大学」の全日程が閉講する頃、
いよいよしらせは、流氷縁にさしかかり、
やがて定着氷縁へと突入していく。

私のメモでは、それが
明日、12月14日のことだった。

次回は、その日のことをバーチャル体験していただけたら、と思う。”… 続きを読む...

行列の先に

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの20回目。
(写真は54次隊のときのもの)

食べ物の話題が続いて恐縮だが、
しらせでは、時々、
こういう、とっても魅力的な?ものまで現れる。

このときばかりは、みんな行列となる。

それがなければどうしても困る、
というものではないけれど、

いつでも手に入るのならば、
無理に並ぶことなどしないけれど、

その状況下では、この存在意義がこんなにも上昇するものなのか。

55次隊にも、もう振る舞われたかな?
ソフトクリーム。

“… 続きを読む...

行動食

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの19回目。
(写真は54次隊のときのもの)

しらせに乗ってからほぼ10日がたった。
そろそろ、55次隊のみなさんは、
野外行動食の分配を始めている頃ではないだろうか。

54次では、
ペンギンの営巣地のある場所で長期キャンプを張るチームや、
南極特別保護地区になっている雪鳥沢という場所で生物調査をするチーム、
ラングホブデと呼ばれる露岩地域で地震計を設置するチームなど、
さまざまなチームが存在したが、
それぞれに必要な食料を
しらせ滞在中にそろえていくのである。

例えば、この写真に写っているものを右からみるとこう。

各種スープ類。。。いろんな味があるから長期滞在でも飽きがこない。
カレーなどのレトルト類。。。忙しい観測中でもすばやくランチをとるときに便利。
ドロップ。。。糖分の補給はとくに低温下では重要。
カル○ス。。。野外での飲み物はこれをお湯でのばしてしばし一服。
深緑の缶詰。。。自衛隊御用達の非常用缶詰。なかなかの美味。

そのほか、
米や味噌や肉や魚や醤油やおやつの冷凍ケーキなど、
ありとあらゆるものを
各行動の目的地や滞在日数、参加メンバーの人数などに応じて
次々と仕分けしては、
ラベリングして、パッキングしていく。

しらせが昭和基地に近づくと、
隊員たちはすぐにいろんな観測をスタートさせなければならないのだ。
南極の夏は短い。”… 続きを読む...

こんな選挙も

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの19回目。
(写真は54次隊のときのもの)

ちょうど1年前の今日、
54次隊のしらせの上では、
ちょっとかわったことが行われていた。


それは「洋上投票」。
日本国外の区域を航海する船舶(指定船舶)に乗船する船員のために、
船舶からファクシミリによって投票する制度で、
いわゆる不在者投票の一つだ。
洋上投票には、ファクシミリ投票用紙の交付を受けるなど、
事前の手続きが必要となる。

もうひとつ、「南極投票」というのもある。
国の行う南極地域における科学的調査の業務を行う組織に属する選挙人が、
ファクシミリによって投票する制度が「南極投票」。
越冬隊が昭和基地で投票するのはこちらだろう。

日本では、そのころ第46回衆議院議員総選挙が行われていた。
いつの選挙もこの国の行き先を左右するものだが、
今、まさに南極に向かっている55次隊のみなさんの活動も、
この地球の未来の鍵を握っていると言える。
選ばれし隊員たちの実力はお墨付きである。
“… 続きを読む...

南緯55度

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの17回目。
(写真は54次隊のときのもの)

私の記録によれば、
12月1週目の気温の変化はこう。

1日17℃ 2日12℃ 3日12℃ 4日7℃ 5日3℃ 6日0.2℃ 7日0℃

日ごとに気温が下がり、
夏から冬へと駆け足で進んでいるという実感があった。

とりわけ、昨年の今日12月5日は、
忘れられない出来事が3つもあった日だった。


1つめは、初ペンギン。
午前9:00頃、海洋上にペンギンが姿を現してくれたのだ。
よく見ると、マカロニペンギンだった。
これから先、
たくさんのペンギンたちやくじらたちやアザラシたちと遭遇することになるのだが、
初めて出会ったときの気持ちは忘れられない。


2つめは、初氷山。
16:30頃、海上にぽっかりと大きな氷山が近づいてきた。
このところ、ずいぶん気温が下がってきたなと思っていたばかりだったので、
そろそろかな、という期待はあった。
どんよりと曇った空のもと、
どことなく青白く光る氷山に、時を忘れて見入っていた。

3つめは、南緯55℃の通過。
ここの通過をもって、南極圏での活動に突入したことになる。
しらせは、「ほえる40度、狂う50度、叫ぶ60度」と言われる暴風圏を越えて進むが、
54次では、比較的穏やかな航海だった。
55次の航海はどうだろうか。
現在、「進めしらせ」のサイトを見ると、
南下から西進にかわっている模様。
初ペンギン、初氷山に盛り上がっていることだろう。”… 続きを読む...