ノルパックネット

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの15回目。
(写真は54次隊のときのもの)

南極までの海洋観測の代表格といえば、
ノルパックネットによるプランクトンの採集。

この大型の網は、
目的に応じて口径や目合いが変わる。
船を留めてから作業を開始し、
ウインチを使って海底に沈ませ、
一定の時間をおいてから再びウインチで引き上げるのだ。

ここでは、船を操縦する航海士さんたちと、
ウインチを扱う海上自衛隊員たちが、
トランシーバーで綿密に連絡を取り合いながら作業を行う。
その絶妙な連係プレーに感心させられたものだ。


ネットが引き上げられると、
そこからはいよいよ観測隊の出番となる。
引き上げたネットに海水をかけながら採集したプランクトンを集め、
最後に濃縮ジュースのように溜まったサンプルを
瓶の中に入れていく。

瓶に入ったサンプルは、
すぐに4観と言われる観測室に運び込まれ
肉眼で観察したのち、
ホルマリンで固定される。

54次の往路では、
写真のような晴れた日は、
おそらく3〜4日ほどしかなかったと記憶しているが、
55次隊ではいかがだろうか。”… 続きを読む...

XCTD

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの15回目。
(写真は54次隊のときのもの)

南極までの海洋観測は、おおよそこんな感じ。


まずは、XCTDといわれる装置を使った観測。
水温や電気伝導度などを検出するする部分を海洋に投下すると、
センサー部分で感知されたデータが
船上のパソコンに直接送られてくるシステムになっている。
写真は、これからそのセンサーを投下するときの様子だが、
この後、すぐに観測室にもどってみると、
水温や塩分などの鉛直分布がもうモニターに映し出されているのである。

この測器は、船舶が航行中でも使用できるため、
毎朝の停船観測時のほか、昼や、真夜中の定時にも投下している。

ただし、
ということは、
毎日、昼夜を問わず観測室に詰めている隊員がいる、
ということでもある。
海洋を専門とする隊員たちの苦労は
同行していた隊員たちですら、
計り知れない。

55次隊の海洋観測には、
54次隊で行動をともにした仲間が
再度、参加しているはずだけれど、
また、観測室の一角にお茶のみcafeでも開きながら
みんながふらっと立ち寄ってくれるのを
待ってるのかな?”… 続きを読む...

海洋観測開始

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの14回目。
(写真は54次隊のときのもの)

しらせがフリーマントルを出港したため
しばらくの間、55次隊員たちは、
ネット環境からも遠ざかることになる。
できるのは、一人あたりに割り当てられた
数メガのメールのやりとりのみ。
画像添付となると、相当小さいサイズのものでない限り
送ることはできない。

したがって、
55次隊から発信される情報は激減することになるが、
もちろん何もしていないわけではない。
南極観測隊の任務は、
出港直後からすでに始まっている。

まず、みんなで取り組むのは海洋観測だ。

毎朝7:20、協力隊員は身支度をして
4観と呼ばれる観測室に集まる。
そこから船尾につながるハッチを出て、
人員点呼と本日の作業確認を行ったのち観測が開始。


表面バケツ採水、ノルパックネット、CTD、XCTD、CPRの投入、
といった観測が、次々と行われていく。
とはいうものの、観測隊は、いろんな専門分野の集まり。
海洋観測の各部門には、その道の専門家がそれぞれ約1名程度いるだけだ。
隊員たちは、リーダーの指示に従って徐々に仕事を覚えていく。
風が吹き、気温が下がり、船が揺れるなかでの作業だったが、
生まれて初めて取り組むことも多く、毎日がとても新鮮だった。

55次隊もおそらく、
午前中は、ほぼ毎日、こうした海洋観測を行い、
午後からは、講習会や各部門ごとのミーティングを行っているだろう。

“… 続きを読む...

出港の日

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの13回目。
(写真は54次隊のときのもの)

出港していく船を見送るときというのは、
なんとも言えないセンチメンタルな気分になってしまうものだが、
出港していく船の上で見送られる方も、
なんとも言えない微妙な気分になるということを、
この日、初めて知った。


今頃は、55次隊のみなさんは、
見送りの方々に大きく手を振りつつ、
離れゆく大陸の光景を目に焼き付けつける一方で、
次に訪れる南極大陸に思いを馳せているに違いない。
そして任務を果たす決意を
静かに胸のうちに秘めるのである。

こういうときは、
あまり先を考えすぎない方がよいらしい。
やるべきことの多さや、
果たすべき責任の大きさが気になり始めたら、
そんなときこそ、
「目の前のことを一つ一つつぶしていく」(副隊長談)、という。

まさに、往路のしらせの中はそんな感じだった。”… 続きを読む...

パース日本人学校との交流

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの12回目。
(写真は54次隊のときのもの)

フリーマントル滞在中には、
こんな交流イベントもある。
パース日本人学校の児童や保護者が
やってきてくれるのだ。


日本人学校の子どもたちにとって年に一度の「しらせ」の寄港は、
日本の人や文化に直接触れることができる貴重な機会の一つとなっている。
船に乗り込めば、
船員さんたちや隊員さんたちから
南極観測の目的や苦労、喜びなどを直接聞くこともできる。
船内のてっぺんにある艦橋から、
食堂や床屋さんなどといったちょっとめずらしい場所まで見学することもできるのだ。

この交流は、しらせの乗員側にとってもプラスとなっている。
子どもたちは、
仕事の都合などで海外で暮らすことになり、
きっと苦労も多いだろう。
にもかかわらず、それを乗り越えて、
現地のコミュニティーでがんばっている。
そんな彼らの姿は、
これから南極へ向かう我々に大きな勇気や励みをもたらしてくれたのだ。

55次隊のフリーマントル滞在は、
たしか今日が最終日。
いよいよ、ここを出港する日がやってきた。
目指すは、南極、昭和基地。

祈 ご安全 祈 ご健闘

酔い止め薬は、早めの服用がよかったですよん。
“… 続きを読む...

規律正しい生活

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの10回目。
(写真は54次隊のときのもの)

今頃は、55次隊のみなさんは、
ぶじ、しらせと合流したことだろう。

しらせに乗船すると、
いやがおうにも心が高揚するものだが、
そんな気持ちをおさえつつ
まずは、ここに集まって
乗船説明を受けることになる。


ここは「観測隊公室」と呼ばれる部屋で、
毎日の食事をとる食堂でもあり、
全員集まって行うミーティングルームでもあり、
出入国手続きや、場合によっては選挙なども行う会場でもあり、
しらせ大学(往路)や南極大学(復路)などの特別講義が開催される教室でもあり、
剣玉の練習をする道場(?)でもある。
隊員が奏でるjazzの生演奏に耳を傾け、南極横断ウルトラクイズにみんなで興じたのもここだっけ。

話をもとにもどそう。
しらせの中の生活というのは、たいへん規律正しい。
 5:45〜 人員点呼(6:00には報告完了)
 6:05〜 朝食
11:35〜 昼食
17:35〜 夕食
18:00〜 全体ミーティング
19:20〜 巡検
       *巡検前30分くらいから巡検終了20:00くらいまでは部屋から1歩も出てはいけない。
洗濯と入浴は23:00まで
と、いった具合。

食事の時間がちょっと早い感じがするが、
実際は、この10〜15分前から並び始めるので、
この時刻には食べ終わっている隊員もいる。

これらのルールは、みんなの総意によって日々少しずつ変化が加えられ、
しだいに、その隊次に応じたものになっていく。
さて、55次隊のみなさんは、
どんな生活を創りあげていかれるのだろう。”… 続きを読む...

ハカランダの微笑み

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの9回目。
(写真は54次隊のときのもの)

冬の気配が感じられる成田を
元気に飛び立った55次隊。
彼らがまず向かうのは、
しらせの待つオーストラリアフリーマントル。
そこは、今まさに初夏を迎えているころ。
空港から港に向かうバスの車窓からは、
咲き誇るハカランダの花が見えていることだろう。


このハカランダ、
日本でいうところのサクラのような存在で、
この時期になると、
示し合わせたように一気に咲きはじめ、
満開を迎える。

今年も、きっと、ちょうど見頃になっているのではないだろうか。

これから南極で活動するみなさんにとっては、
美しい草花や風に揺れる緑を見るのは、
しばらくお預けとなるのだが、
街中のハカランダたちは、
まるで、そのことを知っているかのように、
隊員一人一人に明るく揺れて
エールを送ってくれるのである。”… 続きを読む...

積み込み作業

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの8回目。
(写真は54次隊のときのもの)

フリーマントルでの積み込み物資の中で、
前述のヘリコプターはちょっと特別だが、
食料関係もかなりの量を積み込む。


野菜や果物や牛乳など、
3度の食事にかかわるもの。
ジュースやお菓子やビールなど
3度の食事ほどではないが、ある意味重要?なもの。
それらを、隊員総出で一つ一つ積み込んで行く。


個人消費の食材は、各自の船室に運び込む。
その作戦は、原始的だが、バケツリレーだ。
隊員たちが長い列を作り、
読み上げられた部屋番号の前まで
一つ一つ手渡しで流し込んで行くのだ。

安全第一の観測隊では、
こういう作業時は、
ヘルメット着用、皮手袋着用、が常。

そういえば、55次隊のヘルメットの色は何色なんだろう?
53次隊はオレンジ、
54次隊はグリーンだったけれど。

さあ、いよいよ明日、
55次隊のみなさんは成田を発つ。
ここにバーチャル同行シリーズをしたためながら、
ずっと応援していきたい。
そして、昭和基地に降り立ったなら、
54次隊の越冬隊のみなさんに、よろしく!!”… 続きを読む...

パドル

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの7回目。
(写真は54次隊のときのもの)

55次隊の砕氷航行は
かなり困難な道のりとなるだろう、
そう予想されている。

我ら54次隊のときも、
南極周辺の定着氷の映像などの情報から、
昭和基地への接岸は厳しいかもしれない、
そう予想されていた。
実際、54次は厚い氷に阻まれ、2年連続の「接岸断念」となった。

しかし、いつも最悪の状態を想定しておくのが南極観測隊。
接岸不能は、ある意味、想定内だったとも言える。

ただひとつ、これは想定外だったと言えることがある。

それは、接岸不能になるほど氷が厚くてガチガチなのなら、
最後は、氷上輸送で物資を昭和基地まで運ぶことができる、という想定だ。
20〜30km離れた場所からの氷上輸送ならば、過去に実績もある。


ところが、だ。
54次隊では、昭和基地から約30kmの地点で厚い氷に阻まれたのに、
昭和基地に近い海氷では氷が溶けてゆるみはじめているというのだ。
昭和基地で越冬していた53次隊の隊員たちが
昭和基地側から安全なルートを模索してくれていたが、
雪上車を走らせるには危険な状態だった。
(54次隊 昭和基地周辺の状況 水色に見えるのが溶け始めたパドル部分)

つまり、
昭和基地への接岸が不可能な上に、
氷上輸送もできない、という「想定外」の状況になってしまったのだ。
南極観測に必要な燃料や物資を運び込むには、
もはや、ヘリコプターによる空輸という手段しかなかった。

今回の55次隊で、
しらせに搭載されるヘリのサイズがややアップされたのには、
そうした背景があるのだろうと思う。
地球の果ての極域観測だからこそ、
55次隊も、
最悪のケースを想定して行動している。”… 続きを読む...