ペンギンとオキアミ(vol.91)
ペンギンの主食はオキアミ。
親が雛に与える際にはき出したもの、
つまり、胃の内容物を見せてもらう。
思っていたよりも大きなオキアミで、
その量もずいぶん多いなあと感じた。
消化はまだそれほど進んでいない。
ペンギンは消化をコントロールすることができるらしい。
オキアミ以外にも魚なども食べるらしいが、
やはりオキアミの方がお好みだという。
実際、オキアミが豊富で、
かつ、海の氷が開いて海水面が広くなっている年の方が
ペンギンの成育がよい傾向にあるようだとのこと。
vol.90の話題は、ペンギンの雛の数が増えてきたことだったが、
そこには、オキアミなど多くの生物がかかわる食物連鎖があったり、
海氷状況など多様な気象要素が関係していたりしそうだ。
ペンギンのことをよく知るには、
ペンギンのことだけを考えていてはいけないんだな。“… 続きを読む...
雛がたくさん誕生(vol.90)
ラングホブデ袋浦滞在2日目。
この日は、袋浦から徒歩で往復4時間くらいのところにある
水くぐり浦というもう一つのルッカリーへ向かう。
この辺りでは最大級のルッカリーだ。
地図を片手に海岸線をたどり、
岩場の山や谷を越え、目的地へと向かった。
やはり、途中では
斜度が30度以上はあろうかという岩場でペンギンたちとすれ違う。
餌を自分のおなかに蓄え、
巣で待つひなたちのところへ一生懸命に帰ろうとする姿は
微笑ましいというだけではすまされない、
何か、本能のすごさというものを感じずにはいられなかった。
その後、2時間程度で水くぐり浦に到着した。
目に飛び込んできたその光景に思わず息を飲む。
落ち着いてよくみると、雛たちがたくさんいるのがわかる。
継続して観測してきた隊員によれば、
一昨年の約50羽、昨年の約200羽と比べて、
今年は、約600羽の雛がいるという。
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足跡をたどる旅(vol.89)
今日から2泊3日の予定で
ラングホブデ袋浦へ野外活動に向かう。
袋浦といえば、ペンギンのルッカリーがあることで知られている。
ここに1ヶ月以上滞在し、
ずっとペンギンを調査している3人のチームがいる。
合流してから、間もなく
ペンギンのひなの個体数チェックや体重測定などを行う。
どのひなも前回測定した4〜5日前から
300g〜800g程度体重が増えていて、
その成長ぶりに驚きつつも、順調な成育に安心する。
作業を終えて、ペンギン隊の一人からとても魅力的な提案が持ち上がる。
ペンギンに取り付けていたGPSのデータを地図に落としたので、
実際にペンギンが歩いた道のりをぼくらもたどってみよう、というのである。
子育て中のペンギンは、
つがいのうちの片方が巣を離れて餌を海まで取りに行く。
約1日後、餌を蓄えた親鳥が巣にもどると、
今度は、もう片方の親が海まで餌を取りに行くという。
時には、高い山を越えて、ひとつ向こう側の海まで出かけているそう。
さっそく、ペンギンの足跡をたどる旅が始まった。
出発してしばらくすると、そこには足跡がしっかり残っていた。
さらに進むと、こんどはフンのあともあった。
確かにこのルートを通って餌場まで行っているのだな、と思い一人にやにや。
歩き始めて30分くらいたっただろうか、私たちは岩場の斜面を登っていた。
大人でもえいっと力を込めて踏み上がるような段差が続く。
本当にペンギンはこんな険しい道を”通勤”しているのかな?とふと疑問に思う。
と、その時、
向こうからペンギンがこちらに歩いて来るではないか。
ぴょこぴょこと体をゆらし、やや足早で歩いているように見える。
私たちは、スムーズにすれ違えるよう、
道を空けながらペンギンが通り過ぎるのを待った。
ペンギンの方も、私たちのことを興味深く見つめていた。
そして時折、立ち止まったり、
こちらの方に近づいてきたりしながら、
ようやく、私たちの前を通り過ぎていった。
それから間もなく、
また別のペンギンとも遭遇した。
やはり、このルートは、
一部のペンギンたちの”通勤路”になっているようだ。
それにしても、こんな岩場をあんな小さな体で、よく歩くものだと感心する。
こうして、約3時間後、再びスタート地点へと戻ってきた。
あとで、GPSのデータをパソコン画面でよく見せてもらって分かったことだが、
ペンギンたちは、目的の場所まで、
ほぼ一直線の最短ルートを通っていたのである。
また、岩山の中のもっとも高低差の少なそうな谷間筋を歩いていたのである。
さらに、そのルートは、個体間によって違いはあるものの、
毎回同じルートを行ったり来たりしていたのだ。
いったいペンギンの体のどこに、そんなコンパスがあるのか。
野生の動物たちの計り知れない能力を思い知らされた。
そんなペンギンの足跡をたどる旅だった。
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スカーレンサウンド(vol.88)
スカーレン滞在の目的はいくつかあるが
その一つは、インフラサウンド計の設置。
人の耳には聞こえないような周波数の音を感じ取る装置だそうだ。
その装置とその他の地震計などの測定結果とをクロスさせることで、
より正確な観測をしようという試みらしい。
小高い山の上に、計器を設置する場所が決まり、
太陽光パネルや電源の接続が終わると、
そこからが私たちの出番となる。
岩にアンカーでしっかりと固定し、
空気の振動を感じるホースを8方向に30mずつ伸ばし、
それをソフトボール大くらいの石で固定していくのだ。
石を運んで積んでいくのはもちろん一人一人の手作業。
手分けして作業をするが、1日でできるのは、一人あたりせいぜい30mのホース1〜2本分。
みんな、数時間は無心、無言で、
ひたすら下を向いて、石を運んでは積んだ。
時折、目を上に向けると
遠くには荒々しい氷瀑とむき出しの露岩が
屏風のようにそびえているのが見える。
その手前で、小さな人間たちが、ごそごそとやっている光景がなんとも言えない。
そんな作業を終えて、3日間滞在したスカーレンから昭和基地に戻ると
先に日帰りで戻っていた隊員があるビデオを見せてくれた。
「スカーレンで氷が崩れる音、聞きました?」
「そんなの、聞こえたんですか?」
「ちょうどカメラを回し始めて、1分もしないうちに、すごい音がして。。。」
すぐにビデオ視聴となった。
「ゴーゴゴー」
地響きというか、雷というか、
低くて、どことなく乾いた音が確かに聞こえる。
そばにいた隊員たちの驚いた声も録音されていて臨場感がある。
さて、私たちが設置してきたインフラサウンド計は、
あの時、何かを感知しただろうか。
いや、あのときは、まだ設置する前だったかな。。。残念。
しかし、何もあわてることはない。
氷ができて、流れて、崩れて。。。。。
そんな循環を何百年、何千年と続けてきた南極のことだから。
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アザラシのミイラ(vol.87)
スカーレン大池での滞在2日目。
大陸から氷河が海に流れ込んでいるのが
真正面に見える浜まででかける。
徒歩約1時間、そのポイントに到着。
そこは内湾になっていて、
海の向こう側に、陸続きの大陸が見える。
その圧倒的な光景に息を飲む。
ふと足下に目をやると、
そこには1頭のアザラシがいた。
と言っても、ほぼミイラ化したアザラシだ。
ただ、アザラシの体はほぼ完全な形で残っていて、
しかも、仰向けになって横たわっていたので、
今にも動き出しそうな、そんな気配もあった。
こんな姿で残ってしまうのは、
南極の低温と乾燥、
そして分解者である生物たちがきわめて少ないことによるものだと思われる。
南極の悠久とした時の流れのなかで、
自然と一体化しているアザラシの姿をみて
神々しささえ感じてしまうのはなぜだろうか。
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いつの時代もフロンティア(vol.84)
観測隊員というのは、やはりいつの時代もフロンティア。
そんなことを痛感させられることが多い毎日。
その内の一つがこれ。
2012年の大晦日に、ある研究グループで
上空の”気体をつかまえる”試みが実施された。
詳しいことはよくわからないが、おおよそこんな感じ。
まず、上空の“気体をつかまえる“カプセルを飛ばす。
つかまえた気体を液体窒素で一瞬のうちに固定してしまう。
“気体をつかまえた”カプセルを気球から切り離して落下させる。
このチャレンジがうまくいくか、見ていてどきどきした。
というのも、この装置は、研究者自身の手作りだというのだ。
それだけに、全部で4回しかできないのだという。
研究というのは、やはりいつの時代も情熱の固まり。
観測隊員というのは、やはりいつの時代もフロンティア。
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