沿岸調査用(vol.18)

こちらは、沿岸調査用の防寒具。
vol.17の氷上用防寒具と比べると、
やや薄手。

夏の南極では、
ごくわずかだが地面が露出している場所がある。
そこでは、
主にペンギンの生息調査や、
露岩域のところどころにある湖沼の調査などがある。

この周辺の湖沼では、
1995年に風変わりな植物が発見されて話題になった。
その名も「コケ坊主」。
地面からいくつも顔を出したタケノコのようにも見え、
大きなもので高さ60cm、直径40cmにもなる。
調査の結果、それらは
コケ類、藻類、細菌類などの群生したものとわかった。
南極の湖はたいへん透き通っていて、
かなりの貧栄養。
その中でどのようにこの植物体が形成されたのかは謎。

さらに、今回の隊では、
エアロゾル関係の調査も計画されている。
この調査の仕方はとてもユニーク。
ぜひ、現地からお伝えしたいことの一つだ。

その他、
様々な調査が計画されている。
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装備配布(vol.15)

8月の全体打ち合わせから1ヶ月後。
9月の全体打ち合わせが行われた。

分刻みで
各部署からの連絡が伝えられ
この日も
あっという間に一日が過ぎた。
気がつくと
あたりはすっかり薄暗くなっていた。

と、そこからもう一つ
大きな仕事がまっていた。
備品の配布である。

例の倉庫には
一人一人の装備が隊員別に並べられていた。
それもそのはず。
同じ観測隊といっても
隊員は一人一人行動内容が異なるのだ。
夏隊、越冬隊、
沿岸調査、氷上調査、
設営作業、基地内作業、などなど
活動内容によって装備する物や数が少しずつ違っている。

その上、
隊員によってはいくつか重複して行う場合もあったり、
事前に調査したサイズもそれぞれだったりする。
これをとりしきっている人は
いったいいくつ頭脳をもっているのだろうかと思うくらい
複雑な作業だったに違いない。

最後は一人一人が確認して
ダッフルバッグにつめて自宅へ送る。
本来は試着をして
サイズを確認することになっていたが、
そんな時間はだれにもなかった。

「着れるかな」じゃねえよ「着るんだよ」か。。。
そんなフレーズが思わず口をついて出る。

「できるかな」じゃねえよ「やるんだよ」
と書かれた張り紙をどこかで見たせいらしい。

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中ダン(vol.9)

6月の夏訓でのあるお話が
このかわいらしい図柄の入った
JAREご用達の段ボールを前にして
よみがえる。

しらせに積む込む段ボールの種類は3種類あり、
それぞれ、
大段ボール、中段ボール、小段ボールと呼ばれている。
私物のほとんどは、
この内の「中ダン」サイズに梱包されて
しらせに積み込まれる。

今日は、その梱包作業。
夏隊は中ダン5箱、というのが目安となっている。

実際、5箱のうち、3個までは
専用の防寒具やヘルメット、長靴、作業着、
シュラフ、マット、コッフェルなどの野外活動のための装備などで、
結構、埋まってしまう。

残りのこの中ダン2箱が、
南極の夏を過ごすための私物のスペースとなるのだが、
着替えの数はもとより、
備えておく薬は何が必要かとか、
読む本は何にしようかとか、
ミニ実験道具はどこまで持って行こうかとか、
悩ましいところ。

ただ、何でも少なくすればよい、というものでもない。
少ないスペースではあるが、
スペア、というのも必要だったりする。
めがねとか、長靴の中敷きとか。。。

そんな細かいことを。。。
とついつい思ってしまうのだが、
実は、この考え方は、
不測の部分が多くなってしまう観測隊にとっては重要な意味がある。

観測隊では、毎年、ヘリコプターが大活躍するのだが、
このヘリコプターも2台、というのが原則らしい。
ヘリコプターは、
物資の輸送はもちろん、
観測拠点までの人員の輸送、
上空からのルート探査や測量などなどに活用される。

もしも、それが1機だったら、
それはすなわち、ほぼ0機しかない、ということに等しいのだという。

なぜなら、
1機で、100キロメートル先まで人や物を運んだとする。
そこで、部品の故障など不測の事態が起きたとしたら
だれもそこへ迎えに行けないのである。
そんなリスクがあるのがわかっていて、
行くわけには当然いかないので、
1機のヘリコプターがあっても結局は使わないことになる。

一方、
ヘリが2機あるならば、
普段はそれぞれに別のオペレーションをしていつつ、
いざというときには、
救助にもいける、というわけである。

「スペア」を確保しておくというのは、
常にあらゆる事態を念頭に入れて行動する
観測隊の意識の表れでもある。

さて、この中ダン2箱に、
その意識を
どこまで入れ込むことができたろうか。

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