こんな日は(vol.114)

昨夜からの強風と降雪は
とどまることを知らないようだ。

視程はさらに悪くなっている。
比較してみるとこんな感じ。
左が昨夜の様子、
右が今朝の様子。
奥のアンテナドームは見えなくなり、
青い建物がかろうじて見える程度になった。

こんな日は、基地の中でこうして過ごす。
それは「うどん」の手打ち(まだ仕込みの段階だが)。
調理のK隊員から指南を受けつつ、
みんなにぎやか、かつ、真剣に挑戦中。
K隊員は、これでいいのかなと思っている私たちを見つけると
「うん、それでいい」
「なんでもやってみたらいい」
と声をかけてくれるのでとても安心させられる。
だが実は、時にはさりげなく、さっと手直しをしてくれるのを私は知っている。
それがとてもさりげないから、誰にも気づかれない。

外は相変わらず猛吹雪が吹き荒れているが、
基地の中ではとてもat homeな風が吹いている。
そのコントラストが印象的だと感じつつ、
このような過ごし方は自然の猛威を知っているからこそなのだろうとも思った。
私がうどん作りに迷わず手を挙げたのは
そんな理由もひとつある。

=追記=
ただし、毎日の継続観測が重要な気象隊員や
VLBI観測を行っている地圏モニタリング
および多目的アンテナ担当隊員は
細心かつ厳重な体制のもとで今も活動を継続している。
<補足 VLBI観測とは>
Very Long Baseline Interferometry
(超 長 基線(電波)干渉法)
というひたすら電波星を追いかける観測とのこと。

その他、通信担当隊員や、機械設備保守担当隊員なども
常時、目を見張ってくれていることを
付け加えておく。念のため。”… 続きを読む...

窓からの景色(vol.111)

「俺が知ってるのは、この食堂の窓から見える景色だけだから」
そういって笑わせたのはT隊員だった。

毎日の任務に熱意を注ぎ、
自分の仕事場を必死に切り盛りしているため、
その場から離れることはほとんどない。
その姿は誰もが認めるところであり、
その実力も「すごい」の一言。

そんなT隊員がしばらく食堂の窓際で動かずにいるのを
私は遠くから見ていた。
しばらくしてから、私もその窓際に近づいてみた。
一体、何を見ていたのだろう。。。
そう思って見てみると、
そこに広がっていた景色がこれだった。

相変わらず、すべてが止まっている。
いつものように、雪上車たちが行儀よく並んでいる。

そんな景色も、よく見ると、
凍った海がスクリーンになって、
そこに昭和基地の影が長く伸びていた。
シンボル的な存在の管理棟のガラス天窓だが、
シルエットとして見たのはこれが初めてかも知れない。
また、遠くの氷山はまだ夕日に照らされていて、
心なしか虹色に輝いて見えた。

ははあん、この景色を楽しんでいたのか。。。
と思わず納得した。

私は任務の関係上、
ラングホブデやスカーレンなど比較的多くの野外に出向き、
南極が見せてくれる様々な表情に触れる機会があった方だが、
逆に、こういう基地の美しさを見落としてきたのかもしれない。

その頃、すでに仕事場にもどっていたT隊員に
「窓から見えた景色、きれいでしたね」と言ったとき、
返ってきたのが冒頭の言葉。

「俺が知ってるのは、この食堂の窓から見える景色だけだから」

感性の鋭いT隊員が越冬中に見る景色が気になって
今から目が離せなくなった。

“… 続きを読む...