窓からの景色(vol.111)
「俺が知ってるのは、この食堂の窓から見える景色だけだから」
そういって笑わせたのはT隊員だった。
毎日の任務に熱意を注ぎ、
自分の仕事場を必死に切り盛りしているため、
その場から離れることはほとんどない。
その姿は誰もが認めるところであり、
その実力も「すごい」の一言。
そんなT隊員がしばらく食堂の窓際で動かずにいるのを
私は遠くから見ていた。
しばらくしてから、私もその窓際に近づいてみた。
一体、何を見ていたのだろう。。。
そう思って見てみると、
そこに広がっていた景色がこれだった。
相変わらず、すべてが止まっている。
いつものように、雪上車たちが行儀よく並んでいる。
そんな景色も、よく見ると、
凍った海がスクリーンになって、
そこに昭和基地の影が長く伸びていた。
シンボル的な存在の管理棟のガラス天窓だが、
シルエットとして見たのはこれが初めてかも知れない。
また、遠くの氷山はまだ夕日に照らされていて、
心なしか虹色に輝いて見えた。
ははあん、この景色を楽しんでいたのか。。。
と思わず納得した。
私は任務の関係上、
ラングホブデやスカーレンなど比較的多くの野外に出向き、
南極が見せてくれる様々な表情に触れる機会があった方だが、
逆に、こういう基地の美しさを見落としてきたのかもしれない。
その頃、すでに仕事場にもどっていたT隊員に
「窓から見えた景色、きれいでしたね」と言ったとき、
返ってきたのが冒頭の言葉。
「俺が知ってるのは、この食堂の窓から見える景色だけだから」
感性の鋭いT隊員が越冬中に見る景色が気になって
今から目が離せなくなった。