リュツォフォルム湾定着氷域 (vol.55)

昨日、しらせが流氷縁に到達したと書いたばかりだが、
昨夜、しらせは予想外のはやさでその流氷域を通過した。
流氷域の突破には普通は数日かかるのだが、
JARE54では、ほぼ1日で抜けたことになる。

それは同時に、定着氷域に進入したということ。
リュツォフォルム湾定着氷域だ。

ここまで来ると、帰りの航海まで
しばらく海面を見ることはない。
ずっと、真っ白な世界があるだけだ。

ほどなくして、
しらせはファーストラミングを試みる。
定着氷で船が進めなくなると、
一旦、来た道を100m〜200mほど後進し、
再び勢いをつけて砕氷しながら進んでいくのだ。
3歩進んで2歩下がる、という感じ。

砕氷航行中は、常にゴッゴッゴッゴッゴッという振動が伝わる。
時折、
ゴリンゴリンゴリンッ(非常階段からドラム缶を転がしたような音)、
バリバリバリバリッ(地下鉄が突然トンネルの中に入ったときのような音)
ジャバジャバジャバーッ(嵐の森で強い雨と風にうたれて揺れる木々の音)
という、なんとも言いようのない”ものすごい音”が響くことがある。
そんなときは、隣の隊員と会話することすらできなくなる。
この、海に厚く張り詰めた氷から出てくる”ものすごい音”が、
おそらく、私が聞いたまず最初の「南極の音」だと言えるだろう。

前の記事

流氷縁進入 (vol.54)

次の記事

氷の国