芦倉五人衆

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの38回目。
(写真は54次隊のときのもの)

54次隊の1月3日、
私は、昭和基地内でぜひこの目で確かめたい
と思っていたその場所にいた。


それが、この建物「旧娯楽棟」。
昭和基地内で最も古い建造物。
第一次南極地域観測隊が、
ここに基地建設を決めたとき、
この棟をはじめ、4棟を建設した。
そのうちの1棟が今も現存しているのは奇跡に近い。


第一次観測隊にとっては、
南極の気象環境はどれほど過酷なのか、
上陸可能な場所はどんな場所なのか、情報はほぼなかったろう。
そんな中で、生活の基盤となる棟の建設は
最優先課題の一つだったに違いない。


中には、このようなバーカウンターがあり、
いつ作られたのか、メニューの看板もあった。
長く孤独な昭和基地での生活には、
あるいは、安全な作業を継続していくためには、
このような癒やしの空間も必要だったのだろう。


53次隊越冬隊員の方に見学を依頼するとすぐに快い返事。
おまけに、
53次隊員が実際にこの場所を活用した際の
記録画像まで届けてくれたのだが、
その写真がこれ。
53次隊の日=5月3日=に
この場所を使ってみようということになったという。

私が、昭和基地内でぜひこの目で確かめたい
と思っていたそのわけは、
この第一次観測隊に
我がふるさと富山から5名の隊員が参加していたことにある。
彼らは「芦倉五人衆」と呼ばれていた。
立山を舞台に活躍する山岳ガイドさんたちが中心だった。

昭和基地で研究を始めるということは、
つまり、そこで生活をしていくということでもある。
過酷な環境下の中で生きる術をもつ立山山岳ガイドは、
その中で屈強な精神力と絶妙なチームワークを発揮したという。
それは、故郷の誇りでもある。
富山の教員のとして南極に向かう私には、
この財産を、富山の少年たちに伝える責任があるのではないかと思えた。

どの隊員も、それぞれに思いがあって南極に来ている。
今も越冬を続ける54次隊のみなさんや、
忙しい夏観測、夏作業に汗を流す55次隊のみなさんの
秘められた決意はいかばかりか。
50年以上も続く南極観測には、
熱く、純粋な思いがつながっている。

この中で目を閉じると、当時の光景が浮かんできそうだった。”… 続きを読む...

幸先のよい新年の門出

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの37回目。
(写真は54次隊のときのもの)

昭和基地では、1月2日は
すでに通常業務になっていることだろう。

54次隊のときは、ちょうどこの日、
デルタアンテナの建設という
大きなプロジェクトが完成した日。
デルタアンテナの設置作業が始まったころの様子については、
前回(2013年12月26日付)にここでも書いた。


あの時はまだ、このアンテナを支えるための
支柱を建てていただけだったのだが、
それが、完成するとこうなる。
高さは40Mにもなり、
昭和基地のどこからでも見える。
このアンテナが運用されると、どんなことが見えてくるのだろうか。
今後の研究の成果も楽しみになってくる。
ここまでくるには、54次隊の隊員だけでなく
多くの隊員たちが関わってきたに違いない。


ここまで立ち上げるには、まず地面で組み立てた資材を
下からどんどん積み上げていくのだが、
最後は鳶の専門隊員が一段一段登っていって
高所での作業を手作業で行うことで完成する。
バックには、南極特有の真っ青な空が広がっていたが、
その実、基地周辺の日常的な「強風」と「恐怖」との戦いだったろう。


この日の完成を隊員総出でお祝いした。
アンテナの前では、工事現場監督が挨拶し、
3年連続で夏隊に参加してきたプロジェクトリーダー熱き思いを語った。
隊員たちは、これまでの苦労や功績を称え、惜しみない拍手を送った。
現場ではさっそく御神酒がふるまわれ、
おもち(大福)やお菓子も撒かれた。

新年の幕開けから幸先のよい出来事で、
54次隊夏作業の中でも印象深い一日となった。

55次隊の新年の門出、心よりお慶び申し上げます。”… 続きを読む...

元旦フライト

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの36回目。
(写真は54次隊のときのもの)


明けましておめでとうございます。
昭和基地で迎える新しい年は格別のことでしょう。

54次隊越冬隊のみなさまにとっては、
昭和基地で2年連続2度目の年越し。
今年2014年は、
55次隊のみなさまも加わって、
またにぎやかになったことでしょう。
きっと今回も、こんな門松などを手作りして
正月気分を盛り上げているのでは。


とは言っても、約100名だけが過ごす南極昭和基地。
日本に残してきたご家族やご親族、同僚の方々は
やはりご心配のことと思う。
ただ、隊員たちは、今頃、
こんな豪華なおせち料理を食べていたりすることもあるので、
その点だけはご安心を。

54次隊の時は元旦だけは、朝礼もなく、
お昼ご飯時までゆっくりできる日課が組まれていた。
思い思いに食堂に集まり、
用意された豪華おせち料理をつまんで正月気分を味わえた。


私の場合は、幸運なことに
元旦からお仕事が入っていた。
ちょうど元旦の朝からヘリオペレーションだったのだ。
主な内容は、氷河上にGPSの機材をセッティングすること。
ちょうど元旦の初フライトということで、
機材も、ほら、この通り。


観測隊の仕事ぶりは、
どんなことにも徹底しているのだが、
こういう遊び心にもこだわるのがいい。
もちろん作業も綿密な計画の上におこなわれ、
行動も安全に安全を重ねる。
無事、設置を完了し、正月フライトは終了。

正月元旦から、極上の南極のお正月を満喫できた。

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