小3理科「磁石」の改訂部分

 今回の学習指導要領の改定部分にちょっと思い当たることがあったので、過去の授業記録を久しぶりに広げてみました。

 改訂部分というのは、小3理科「磁石」の内容の取り扱いに、「磁石が物を引き付ける力は、磁石と物の距離によって変わることにも触れること。」という一文です(参照1 2017 文部科学省)。「磁石と物の距離」の関係とは、個人的には、つまり「磁界や磁場」というエネルギーに関わる概念を指すのだろうと考えています。この改訂については賛成です。というか、従来まで、この視点が盛り込まれていなかったことにむしろ疑問を抱いていました。

「距離」から「磁界」に向かう学習指導案磁石と物の距離は2cm?4cm?手作り教材「磁力線観察器」

 では従来はどうだったのでしょうか。その内容はア、イの2項で示されていて、それは大きく以下の4つに整理できます。

1)磁石に付く物、付かない物があること 

2)異なる極どうしは引き合い、同極は退け合うこと 

3)(自由に動くようにしておくと)いつも南北の向きで止まること 

4)磁石に付けると磁石になる物があること

 単元「磁石」は、「A物質・エネルギー」に属する内容でありながら、この中には、「磁界や磁場」というエネルギーに関わる概念形成に触れるような文言は見当たりません。

 この問題を真正面から取りあげて、ある授業を提案したことがあります。もう8年も前のことです。まず、本単元は「子どものエネルギーの概念形成の一部に位置付くもの」であり、その本質は「極や磁界がもつエネルギーの働きについて、科学的にとらえていくこと」にあると明示しました(参照2 2009 澤柿 富山大学附属小学校平成21年度冬の教育研究会指導案 p1 / 参照3 2010 澤柿「単元『じしゃく』の授業展開」初等理科教育Vol.44 No2 p52-p54)。それを、まだ小3の児童がどのように学ぶのかを実践的に検証したのです。全体計画は全8時間、研究授業は6/8時と7/8時の2授業です。当時の記録を振り返ってみると、特に7/8時は、まさに「磁石と物の距離」を窓口にしていました(参照4 2009 澤柿 富山大学附属小学校平成21年度冬の教育研究会指導案 p8)。

 実際の授業では、「磁石と物の距離」が2cmだったという子と、いや4cmだったという子がいて、それらの異同から授業がスタートしました。2cmと4cmどちらが本当なのか?どちらも本当だとすれば何が違うのか?子どもたちは使っていた磁石の強さを比べたり、磁石のパワーをイメージ図で表現したりながら互いに対話をひらいて議論しました。磁石から出ている見えない力が見えたらいいのに….という切実感が高まったところで授業者は、事前にこしらえていた手作り教材「磁力線観察器」を配布します。磁力線を実際に観察する活動は、子どもにとっては、見えないエネルギーを実感するということに他なりません。

 これはもう8年前の授業です。ちょうど平成20年度改定版学習指導要領が出たばかりの頃です。本来なら、10年ぶりの改訂部分をなぞるような授業の公開が求められていたのかも知れません。でも、それと同じくらい大事なことは、そもそもその単元の本質は何かを見極めて主体的に授業を構想することなのだろうと思います。今回、「磁石と物の距離にも触れること」という一文が加わりましたが、それをただ教えるだけ、もしくは確かめるだけでは意味がありません。その先には「磁界や磁場」というエネルギーに関わる概念を形成するという本質的なねらいがあることを忘れてはならないと思います。その前段階として、「磁石と物の距離」の関係が気になるようにな状況を子どもと授業者の共同作業で創造していく時間帯が実は重要だということが示されたのではないかと理解しています。

 次期学習指導要領が告示された今、その改訂部分を考えることで、次・次期学習指導要領(平成40年度?)までも見えてきそうな気がします。