スカルブスネス仏池で見たもの、聞いたもの(vol.80)

スカルブスネスきざはし浜滞在2日目。
朝7:45、きざはし浜の小屋を出発して、仏池を目指す。
仏池までは、およそ1時間半の行程。そのほとんどが岩場の上り坂。
FA隊員の案内のもと、観測器具を背負子にくくりつけながら連なって歩く様は、
夏の北アルプス登山のよう。

そうしてたどり着いたのが仏池。
あの「コケボウズ」でおなじみの方も多いだろう。
やはり池の水はどこまでも透き通っていた。
ボートにのって水の上から水中をのぞくと、
底にはコケボウズが生きているのがよくわかった。
極貧とも言える貧栄養の池の中で、
彼らはどのように成長をとげてきたのだろうかと不思議に思う。

今日はもう一つ、どんな図鑑にも載っていないような
とてもファンタスティックな現象に出会う。

なぜか、仏池の周りでは、
カラン、コロン、カラン、コロン、
コロコロ、カラカラ、コロコロ、カラカラ、という音が響いていたのである。
あまりにも美しい音色なので、その音をたどってみた。
するとそれは池の上に浮く直径4〜5mの氷の固まりから聞こえてきていた。
近づいてよく観察してみると、それはただの氷の固まりではなかった。
長さ30〜40cmほどのつららのように垂れ下がる棒状の氷が
それはそれは無数に束になっていて、一つの氷の固まりになっていたのだ。
霜柱の巨大化したもの、と言ったらよいだろうか。

それが、時折、風や水面の波動によってバラバラになって散っていく。
その時、そのつららたちは互いにぶつかり合って、
カラン、コロン、カラン、コロン、
コロコロ、カラカラ、コロコロ、カラカラ、という音を出していたのだった。
その音色をあえて例えるならば、
純度の高い備長炭をたたいたときに響くあの乾いた感じの音、
あるいは、氷でできた木琴(氷琴)があるとすればあんな音だろうという音。
とにかく、初めて聞く音なので、例えようがない。

さらに圧巻だったのは、
一度、その氷柱の束が崩れると、それが合図となって
いっきに何百本、何千本もの氷柱が崩れて、一方向に流れ出すのである。
その様たるや、まるで生き物のようだった。

いつ、どんな自然条件であのような“巨大霜柱”が形成され、
いつ、どんなタイミングで崩れ始めるのか。
それは、どんな図鑑にも載っていない不思議な光景だったが、
そこに、たまたま自分たちが居合わせたのは、それも自然のいたずらか。

あの世界最大級の霜柱の動き出す音が、
私が聞いた4つ目の南極の音となった。