スカルブスネスきざはし浜で聞いた音(vol.79)

今日から再び、野外行動に出る。
今回はスカルブスネスきざはし浜。
前回のラングホブデ雪鳥沢と同様、露岩帯の南極。
ここには観測隊の小屋があり、その前には海氷が浮かぶ浜がある。
小屋のすぐ裏手には親子池と呼ばれる大小2つの池があり、
遠くにはシェッゲという高さ400mの大絶壁がそびえている。

テントを張り終えたあと、小屋の裏手に続く沢を歩く。
氷河の解け水が流れてきたのか、そこは扇状地のようになっていた。(写真)
足下を見るとペンギンたちの足跡があちこちに残っている。
周囲を見回すと、真っ平らな地面に突然巨岩が現れたり、
何か強力な力でねじ曲げられたような奇岩や、
ぱっくりと大きな穴がくりぬかれたようになっている変岩があったりする。

そうこうしているうちに、ふと、あることに気づく。
自然の音以外、まったく音がしないのだ。
歩くときの自分の足音か、防寒具が触れ合う音以外
何も聞こえてこないのである。
だから、自分が立ち止まると、聞こえるのは自然の音だけ。

そんな中、山と山の間の谷筋にさしかかった。(写真後方の谷筋)
そこで、ひときわ大きな音で響く、ある不思議な音と遭遇した。
グオーン、オーン、オン。。。
おや?何の音だ?
キュイーン、イーン、イン。。。
あれ?どこから聞こえてくるの?
同行の隊員と二人顔を見合わせ、自分たちの耳を疑った。
しかし、確かに聞こえてくる。
グオーン、オーン、オン。。。
キュイーン、イーン、イン。。。
その不思議な音は、写真左手の滑らかな山の斜面の上の方から聞こえてくる。

しばらくして、斜面を見上げながらその隊員が言った。
「風の音だ」
南極特有の大陸から吹き付ける風が、
ちょうどこの谷を滑るように走り抜け、
山の斜面のわずかな凹凸によって風切り音が生まれているようなのだ。
グオーン、オーン、オン。。。
キュイーン、イーン、イン。。。
まるでジェット機が頭上を通過するときのような音が、この谷に響いていた。

もっとはっきり聞いてみようと、二人で山の斜面に近づいてみたが、
不思議なことに、そこでは、もうその音は聞くことができなかった。

あそこは、まさに風の谷。
あの風の谷の音が、私が聞いた3つ目の南極の音となった。