別世界(最終回)

まぶしいばかりの夕日に包まれながら
私たちは夕食をとった。
食堂の窓から斜めに差し込むオレンジ色の光線が、
卓上のごちそうをいっそう飾り立ててくれた。

みんなが夕食を終える頃には、
もう辺りは暗くなり始めていた。
同時にそれは、ドラマチックな天体ショーの
プロローグでもあった。

日没後の室堂は、
どこか無人の異星にやって来たのではないかと
思ってしまうほど静かだった。
ラッシュアワーの交通の騒音はもちろん、
虫たちのにぎやかな声も、
行き交う人々の会話も、ない。
遠くで、雪解けの水が谷間に流れ落ちていく音だけが響いている。

完全に日が沈むか沈まないうちに、
一足早く外に出て、この日の天体ショーの始まりを待つことにした。
星が、ひとつ、またひとつと輝き出す。
気が付けば、もう天を埋め尽くすような星である。

外から、子供たちの部屋の窓をノックした。
トントン、トントン
「え?だれ?」
「なんだ、先生か。。。」
「先生、何しとるん?そんなところで」
「ちょっと、外に出てこないか?」

しばらくして、数名の男子が駆けてきた。
そして、出てくるやいなや、
「うわあ、すげえ」
「ものすごくきれいな星だね」
「ね、あれ、北斗七星じゃない?」
「星って、こんなにいっぱいあったっけ?」
空を仰ぎながら、みんなが感動に包まれているのがわかった。

すると、今度は女子たちも出てきた。
「きれい〜」
「ね、天の川ってどれかなあ」
「あれなの?うそ!初めて見た〜!!」
「まるでプラネタリウムみたいじゃない?」
この星空を例えるとしたら「プラネタリウム」としかやはり言いようがなかった。

この日は、まず、
目の高さのやや上の方で大きく横たわる北斗七星を確認し、
そこから数えて(5倍して)北極星を確認し、
さらに反対側にカシオペアを確認し、

ちょうど天頂付近に夏の大三角を指でなぞって、
デネブ、ベガ、アルタイルという名前を思い出し、
はくちょう座が天の川を流れるように羽ばたいているのをはっきりと空に描き、

南に目を移してさそり座、アンタレスを見て、
ひときわ大きく、明るく光る木星(?)を。。。。

いやいや、もう、こんな美しい星の下では、
何が何星だとか、何座だとか
どうでもよくなってきてしまう。

地球は宇宙の中の一つとして存在していて、
そこに私たちがものすごい偶然で立っていて、
互いに、絆を深めて合っているという奇跡。
満天の星空の中で、
みんなとの出会いに恵まれたことに感謝した。

(おわり)