別世界(6)

頂上につくと、
そこは、まさに「別世界」だった。

涼しく乾いた風が肌にやさしい。
360°のパノラマの視界が普段の遠近感覚を寄せ付けない。
自然の優しさと厳しさとは、相反するものではなく、
厳しいが故に、優しさにあふれていられるのだと感じることができた。

あふれてくる感情は、
止まることはなかった。

みんなの心の中には、
どんな思いがこみ上げてきたのだろうか。
きっと、
自分らしい、自分だけの言葉で、
その思いが語られたに違いない。
表現力とはそういう心の問題でもある。

ふと、横をみると、
なんと、あの時のおばあちゃんが登ってこられるではないか。
おばあちゃんは、あと数歩で山頂というところでも
一歩一歩、ていねいな足取りでおられた。
そして間もなく、登頂。
やれやれといったような表情で一息ついておられた。
私は遠くから、軽く会釈をし、登頂をお祝いした。

私は、
みんなと一緒に登頂できた感動と、
もう一つの感動とを
ダブルでかみしめることができた。

涼しく乾いた風が、やはり心地よかった。

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