別世界(3)

澄んだ空気の向こうに
一の越が見える。
すぐそこにあるように見えて
なかなか届かない。
なかなか届かないようだけれど
一歩ずつ確実に近づいて行っている。
そんな感覚が、なんとなく楽しい。

それは、
何十ページもあったと思っていた問題集の残りが
あとわずかになっていくようであり、
毎日10円ずつこつこつ貯金してきた貯金箱の重さが
どんどん手応えを増していくようでもあり、
細かい部品ごとに組み立ててきたプラモデルが
一つ一つ結びついていって形が見えてきたときのようでもあり。。。

そんな思いにひたりながら休憩をしていると
すぐ横に素敵なおばあちゃんが腰を下ろされた。
その表情には、山歩きが楽しくてならない、
という思いにあふれていた。
私たちの、疲労度を示すメーターのような面持ちとは
大きく違う!
思わず「お元気ですね」と言葉が口に出てしまった。
(失礼なご挨拶になってしまったと今になって思う。)
そこから、しばし、会話がはずむ。

「元気ってことはありませんよ。もう80歳です」
「え!!」
(驚きで声にならない)

「毎年登っているんです」
「え!!」
(驚きでたたみかけられる)

「あちこちの山もずいぶん行きました」
「はあ。。。」
(ようやく少し落ち着いて話がきける)

「今日は、一の越までですか? 
 雄山の頂上までですか?」

「頂上まで行きますよ。
 ぜひ行きたいと思っているんですけどね。。。」

「私たちの若い時分は戦争でねえ。
 20歳で嫁いで、青春なんてなかった。
 今が青春みたいなものなんです。。。」

「でも、だんだん一緒に行く仲間も少なくなって、
 立山はこれで最後にしようと思って。。。」

あまりの健脚ぶりに
その言葉は、私にはご謙遜としか受け止められないのだが、
それよりも何よりも
山の途中で足を止めている自分たちに
いくつもの山(人生の山も)を極めてこられたその高見から
さわやかな風を注いでもらったような気がした。

心の底からエネルギーをもらったそんな休憩時間となった。