コケボウズの正体
第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの58回目。
(写真は54次隊のときのもの)
いよいよ、コケボウズの採集に取りかかる。
すでに、ボートの上からはその姿が確認できていた。
水深は約4m〜6mほどだが、
水はガラスのように透き通っているので、
池の底まで手が届きそうな感じすらする。
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思わず、防水カメラを投入して撮影。
これがコケボウズの姿だ。
池の底からタケノコのように
ニョキニョキと伸びているのがわかるだろうか。
横から見るとほぼ整った円錐形で、高さは30〜60cmくらい。
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専用の機械を沈めてその一部を無事採集することができた。
なんと、このくらいの大きさにまで成長するのに
何百年かかっているらしい。
低温であること、貧栄養であること、
そして、氷で太陽光が届かないことなど
成長を困難にしている要素はたくさんありそうだ。
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そんな中でも生きていこうとする
コケボウズの生命力はすごいものだと感心させられる。
顕微鏡モードで撮影した画像には、
驚くべき事実が映っていた。
ほんのわずかだが、新緑の芽のようなものがあったのだ。
私はこの一点の緑に
1年間に数mmしか伸びることができないというコケボウズの
生きている証を見た思いがした。
同時に、幸せに生きるということの価値は、
誰かより速く、何かができるとか、
誰かより遠くへ、到達することができるとか、
そういうことではないような気がした。
澄んだ池の底でコケボウズは、
力強く、それでいて無理をせず、
目立たなくとも、胸を張り、
置かれた場所で、周囲に微笑んでいた。
それが、謎の生物コケボウズの正体だった。
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