月と太陽

仲秋の名月に
おそらく今頃は、
多くの人々が心を奪われているはずの夜。

私は、
そのほんの数時間前の光景に
思わず息を飲んでたたずんでいた。

そのころ、私は海にいて、
真っ赤な夕日が
西の空に沈んでいくのを
何をするともなく見ていた。
この日の夕日は、
特に大きく、くっきり、赤く染まって見えているなあ、
そう思っていた。

いよいよ、夕日が沈み始め、
まんまるだった形に
くぼみができてきたころ、
ふと、
反対側の空に目を向けた。
すると、
東の立山連峰の稜線から、
これまたまんまるの月が
顔をのぞかせ始めていたのである。

海に向かって立つ私を中心にして、
ちょうど左手からは真っ赤な夕日が沈んでいき、
それと同時に、
ちょうど右手からは薄白の満月が昇ってくるのだ。
そして、しばらくして後、
夕日は、地平線の中へゆっくりと姿を隠し、
満月は、稜線から離れてふわりと空中へと浮かんでいった。

月と太陽の営みが見せた
このわずか数分の芸術的な映像は、
これから仲秋の名月の晩が始まるよ、という
おしゃれなプロローグのつもりだったのだろうか。