南極大陸からの初月の出(vol.73)

かつて、
「初月の出を見に行こう」という理科の単元を組んだことがある。
「初月の出」とは1月1日に初めて昇る月のこと。
もちろん造語である。

一年で最初の月が、
いつ、どの方角から、どんな形で昇ってくるかを考えることは
子供たちにとってわくわくすることではないかと考えたのである。

月や星の単元は、
子供の継続観察や追究意識の醸成が難しい単元の一つで、
それをなんとかしたいという一念だった。

あの年は、ちょうど1月1日が満月の日で(あるいはその前後が満月)、
東の立山連峰の稜線から昇ってきた見事な月を
冬休み中にも関わらず観察しにきてくれた
数名の子供たちとともに眺めたのを思い出す。

あれから約15年が過ぎた今、私は、
1月1日に南極大陸から昇る月を眺めていた。
形は、あの時と同じとまではいかないが、ほぼ満月。

一年で最初の月が、
いつ、どの方角から、どんな形で昇ってくるのか、
もう子供ではない大人の自分が
わくわくしながら予想し考えてしまっていた。
気がつくと、
大陸と月が両方見られるような場所を
真剣になって探していた。

2013年1月1日午後11:00頃、
大陸の地平線(?)氷平線(?)から昇る月を
しっかりとまぶたに焼き付けた。

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昭和基地での大晦日(vol.71)

昭和基地での大晦日。

今日は午前までには業務を終える、いわゆる半ドン。
快晴でほぼ無風のこの日をねらって、観測系のビックプロジェクトの一つが実施された。
(このことについては、また後日、ぜひご紹介しなければと思っている。)
その後、環境保全隊員のかけ声によって昭和基地クリーンアップ作戦を行い周辺のゴミを集めた。

午後からは、集めたゴミの集積に取り組む。
また、機械車両担当隊員の提案によって使用車両およそ10台のトラックをみんなで洗った。
設営隊員たちの手によってしつらえられたのは、こちらの鐘つき堂と門松だった。
そういうみんなの姿をみているうちに、
しだいに、自分の身も心もきれいになっていくような気がしてきた。
さらに、調理隊員たちは、
今日も年末の特別メニューを用意してくれていた。
食堂には「アディオス2012! カモン2013!ウエルカム」などというにぎやかな垂れ幕も飾られていた。
新年を迎える準備が整った。

夜も更けて、午後11:00頃になった。
といっても真昼のように明るいのだが。
その頃になって隊員たちがぞろぞろと第一夏宿の鐘つき堂の前に集まってきた。
ご〜ん、ご〜ん、ご〜ん。
南極でも除夜の鐘がはじまったのだ。

「今年こそ、オペレーションが無事全部できますように!」 ご〜ん
「全員、けがや病気をせずに帰れますように!」 ご〜ん」
「家族が元気でいてくれますように!」 ご〜ん
いつの間にか、一人ずつお願い事をいってから鐘をつくというルールになっていく。

わたしも一つ、鐘をつかせてもらう。
「日本中の少年、少女の健やかな成長を願って!」 ご〜ん

それではみなさま、
旧年中はご愛読いただきありがとうございました。
新年も(明日からも)
引き続き「南極兄弟」をよろしくお願いいたします。

よいお年を。

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外出注意令(vol.69)

南極昭和気象台の予報的中。
瞬間最大風速は35mを超えた。

強風の到来は歓迎できないが、
それを2〜3日前から予報し、
見事的中させる気象チームはさすが。

彼らによれば、
強風のピークはまだ先のようで、
今から約6〜7時間後の真夜中が
もっとも警戒が必要な時間帯だという。

早速、越冬隊長の指揮のもと
朝の人員点呼、集団での移動、各作業へのKY意識の強化などが指示された。
一方、各隊員は
それを緊張感と切実感をもって受け止め、責任ある行動に努めた。

もっとも、窓の外の様子を見ただけで、
これが普通でないことはすぐにわかった。
私は学生のころはスキー部のはしくれで、
スキー場の頂上で吹雪かれ、
冷たい空気の痛みを感じながら何時間も練習した口だが、
ここ南極でも、自然の猛威を改めて実感した。
自然に逆らってはならないのだ。

どっしり構えていても風にあおられて足下がぐらついたり、
風上に正面向いて歩けないというのは
おそらくこれが初めてのことだと思う。

越冬経験者によれば、冬のブリザードの場合は、
この強風に加え、低温、積雪、視界の悪さも加わって
たいへんなことになるという。

今も、窓の外から、
ゴーゴー、ぴゅーぴゅーという音が聞こえる。
それはまるで、
氷の大陸を這いつくばうように流れてきた地球の息づかい。
この音が、
私が体験した2つ目の「南極の音」となった。

(1つ目の「南極の音」はアーカイブス12月15日(vol.55)を参照)
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ブリ対策(vol.68)

南極昭和基地気象台によれば、
明日はブリザードを想定した対応が必要だという。

現在、午後11:30。
にわかに風が強くなってきた。
風速は12mを越えた。

ブリザードのような強風がふくと、
外出注意令、または、外出禁止令が発動する。
今晩のうちに隊員たちは
それぞれの宿舎で1日をすごせるように非常食を確保したり、
明日の朝の人員点呼の要領を確認したりしたところ。

実は、我々隊員は、第一夏宿と第二夏宿というところに分かれて住んでいる。
私の場合は「第2夏宿」の住人なのだが、
そこには水道もトイレもない。

(でも、通常は、約200m離れた「第1夏宿」ですべて済ませるし、
 飲料水はポリタンクで常備してあるし、
 給湯器があってお湯でお茶やコーヒーも飲めるので
 案外、快適である。)

ただ、普段はそれほど不自由がなくても、
天候が荒れると、話は別である。
いつも歩いているわずかな道のりでも危険になるという。
万が一の場合にはしっかりと備えておかなければならない。
その一つがこの通称トラロープ。
もしも屋外にいて吹雪や強風になってしまった場合、
このロープを伝っていけば必ずどこかの宿にたどり着くようになっている。
FA(フィールドアシスタント)隊員がまず設置、確認、補修するのがこれだ。
隊員たちの命綱、ライフロープである。

ちなみに、この写真は、
ほぼ真夜中の12:00に撮影。
最近は毎晩この明るさ。”… 続きを読む...

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