かつて、
「初月の出を見に行こう」という理科の単元を組んだことがある。
「初月の出」とは1月1日に初めて昇る月のこと。
もちろん造語である。
一年で最初の月が、
いつ、どの方角から、どんな形で昇ってくるかを考えることは
子供たちにとってわくわくすることではないかと考えたのである。
月や星の単元は、
子供の継続観察や追究意識の醸成が難しい単元の一つで、
それをなんとかしたいという一念だった。
あの年は、ちょうど1月1日が満月の日で(あるいはその前後が満月)、
東の立山連峰の稜線から昇ってきた見事な月を
冬休み中にも関わらず観察しにきてくれた
数名の子供たちとともに眺めたのを思い出す。
あれから約15年が過ぎた今、私は、
1月1日に南極大陸から昇る月を眺めていた。
形は、あの時と同じとまではいかないが、ほぼ満月。
一年で最初の月が、
いつ、どの方角から、どんな形で昇ってくるのか、
もう子供ではない大人の自分が
わくわくしながら予想し考えてしまっていた。
気がつくと、
大陸と月が両方見られるような場所を
真剣になって探していた。
2013年1月1日午後11:00頃、
大陸の地平線(?)氷平線(?)から昇る月を
しっかりとまぶたに焼き付けた。
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みなさま、明けましておめでとうございます。
新年は、ヘリオペレーションで幕を明けた。
行き先は、南極大陸と海の境にあるホノール氷河。
そこにヘリコプターでアプローチし、
GPSの機器を設置する隊員たちに同行した。
大陸の大氷原は、端が見えないほど真っ白に広がっていて、
白い砂漠の中にぽつんといるようなそんな感覚になった。
氷河は、凍って止まっているにもかかわらず、
その鋭い様はまさにしぶきを立てて流れる河そのものだと感じた。
南極では、また別の時計で時が動いているのだと思う。
人の目でものごとを見ていては、
本来見えるものも見えなくなってしまうのではないだろうか。
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昭和基地での大晦日。
今日は午前までには業務を終える、いわゆる半ドン。
快晴でほぼ無風のこの日をねらって、観測系のビックプロジェクトの一つが実施された。
(このことについては、また後日、ぜひご紹介しなければと思っている。)
その後、環境保全隊員のかけ声によって昭和基地クリーンアップ作戦を行い周辺のゴミを集めた。
午後からは、集めたゴミの集積に取り組む。
また、機械車両担当隊員の提案によって使用車両およそ10台のトラックをみんなで洗った。
設営隊員たちの手によってしつらえられたのは、こちらの鐘つき堂と門松だった。
そういうみんなの姿をみているうちに、
しだいに、自分の身も心もきれいになっていくような気がしてきた。
さらに、調理隊員たちは、
今日も年末の特別メニューを用意してくれていた。
食堂には「アディオス2012! カモン2013!ウエルカム」などというにぎやかな垂れ幕も飾られていた。
新年を迎える準備が整った。
夜も更けて、午後11:00頃になった。
といっても真昼のように明るいのだが。
その頃になって隊員たちがぞろぞろと第一夏宿の鐘つき堂の前に集まってきた。
ご〜ん、ご〜ん、ご〜ん。
南極でも除夜の鐘がはじまったのだ。
「今年こそ、オペレーションが無事全部できますように!」 ご〜ん
「全員、けがや病気をせずに帰れますように!」 ご〜ん」
「家族が元気でいてくれますように!」 ご〜ん
いつの間にか、一人ずつお願い事をいってから鐘をつくというルールになっていく。
わたしも一つ、鐘をつかせてもらう。
「日本中の少年、少女の健やかな成長を願って!」 ご〜ん
それではみなさま、
旧年中はご愛読いただきありがとうございました。
新年も(明日からも)
引き続き「南極兄弟」をよろしくお願いいたします。
よいお年を。
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結局、あの強風は丸一日ずっと吹き荒れた。
最大瞬間風速は42.9m。
12月では歴代4位だという。
あの強風の中では人は何もできなかったが、
地球からみれば、
ほんの吐息のようなものかもしれない。
強風と吹雪が過ぎたあとに、
こんなおもしろい光景があった。
風下側にできるミニドリフトだ。
普通、ものかげに入れば、
風や雨は防げるものと思うものだが、
南極の自然条件では、
どうやらこうなるらしい。
風が横なぐりに強く吹くせいか、
雪が軽いせいか、
建物やものかげの方に雪がたくさん積もる。
実は、このことは
昭和基地の建築にも反映されている。
昭和基地の多くの建物は高床式になっていて
床下を風が通り抜けられるようになっているのだ。
そのことで、
こうしたドリフトができにくくなるのだと聞いたことがある。
それでも、数メートルのドリフトができるらしいが。
ものかげに入って雪をしのぐ、というこれまでの常識と
真逆でおもしろい。“… 続きを読む...
南極昭和気象台の予報的中。
瞬間最大風速は35mを超えた。
強風の到来は歓迎できないが、
それを2〜3日前から予報し、
見事的中させる気象チームはさすが。
彼らによれば、
強風のピークはまだ先のようで、
今から約6〜7時間後の真夜中が
もっとも警戒が必要な時間帯だという。
早速、越冬隊長の指揮のもと
朝の人員点呼、集団での移動、各作業へのKY意識の強化などが指示された。
一方、各隊員は
それを緊張感と切実感をもって受け止め、責任ある行動に努めた。
もっとも、窓の外の様子を見ただけで、
これが普通でないことはすぐにわかった。
私は学生のころはスキー部のはしくれで、
スキー場の頂上で吹雪かれ、
冷たい空気の痛みを感じながら何時間も練習した口だが、
ここ南極でも、自然の猛威を改めて実感した。
自然に逆らってはならないのだ。
どっしり構えていても風にあおられて足下がぐらついたり、
風上に正面向いて歩けないというのは
おそらくこれが初めてのことだと思う。
越冬経験者によれば、冬のブリザードの場合は、
この強風に加え、低温、積雪、視界の悪さも加わって
たいへんなことになるという。
今も、窓の外から、
ゴーゴー、ぴゅーぴゅーという音が聞こえる。
それはまるで、
氷の大陸を這いつくばうように流れてきた地球の息づかい。
この音が、
私が体験した2つ目の「南極の音」となった。
(1つ目の「南極の音」はアーカイブス12月15日(vol.55)を参照)“… 続きを読む...
南極昭和基地気象台によれば、
明日はブリザードを想定した対応が必要だという。
現在、午後11:30。
にわかに風が強くなってきた。
風速は12mを越えた。
ブリザードのような強風がふくと、
外出注意令、または、外出禁止令が発動する。
今晩のうちに隊員たちは
それぞれの宿舎で1日をすごせるように非常食を確保したり、
明日の朝の人員点呼の要領を確認したりしたところ。
実は、我々隊員は、第一夏宿と第二夏宿というところに分かれて住んでいる。
私の場合は「第2夏宿」の住人なのだが、
そこには水道もトイレもない。
(でも、通常は、約200m離れた「第1夏宿」ですべて済ませるし、
飲料水はポリタンクで常備してあるし、
給湯器があってお湯でお茶やコーヒーも飲めるので
案外、快適である。)
ただ、普段はそれほど不自由がなくても、
天候が荒れると、話は別である。
いつも歩いているわずかな道のりでも危険になるという。
万が一の場合にはしっかりと備えておかなければならない。
その一つがこの通称トラロープ。
もしも屋外にいて吹雪や強風になってしまった場合、
このロープを伝っていけば必ずどこかの宿にたどり着くようになっている。
FA(フィールドアシスタント)隊員がまず設置、確認、補修するのがこれだ。
隊員たちの命綱、ライフロープである。
ちなみに、この写真は、
ほぼ真夜中の12:00に撮影。
最近は毎晩この明るさ。”… 続きを読む...
南極観測隊員たちには苦労も多いが、
それより、喜びの方がもっと「多い」。
いや、
喜びが「大きくなる」と言った方が正しい。
それは、
長い間の準備が実った時の喜びだったり、
未開拓の部分がしだいに明らかにされていく喜びだったりするが、
今日の夕食後にはこんな喜びが舞い込んだ。
「越冬隊員にご子息が誕生されました!」
お〜っ! やったね〜! おめでとう!
パチパチパチパチ! パチパチパチパチ! パチパチパチパチ!
連日の夏作業で疲労困憊の隊員たちが
力一杯の拍手を贈り続けた。
どの隊員もみんな笑顔だった。
一人の喜びが、
みんなの大きな喜びになっていた。
あらためまして、お誕生おめでとうございます!
そして、南極の僕らに笑顔をありがとう!
健やかに育て!
1年4ヶ月後に帰るあなたのおとうさんは、
今、がんばっているよ!ほら!
(全体ミーティング終了後、さらに打ち合わせを続けるおとうさん)
“… 続きを読む...
朝から小雪がちらつく。
結局、一日中、ずっと降っていた。
そんな中、
あの「PANSY計画」に携わらせていただくチャンスを得る。
昭和基地に、約1000本のアンテナを設置し、
高度500kmからの情報をキャッチしようという
世界でもあまり例のないとてつもない計画。
もちろん南極では初の試み。
以前から、この1000本のアンテナ群は
どんなところに立てられているのか、
基地内の限られた隊員たちだけの力で
どのように取り組んでいるのか、
興味はつきなかった。
宿舎を出てたのが午前7:45。
宿舎に戻ったのは午後6:45。
今日一日、
アンテナを設置する岩場を、
部材をもって何度も往復し、
慎重に基台の上に立て、
方向を確かめては
ボルトを締めていく。
作業になれてくる反面、
手指の先が冷えてくる。
1時間に立てられる数は数本。
作業に携わった隊員たちはみな、
いつの間にか無言になりつつ
集中しながらアンテナを立てていた。
そんな時、
ふと心にうかんだうた
南極で PANSYアンテナ 立てながら 舞い降る雪を 共にとらえる
“… 続きを読む...
南極 昭和基地より メリークリスマス
クリスマスの今日、
昭和基地に立った特別のクリスマスツリーは、
紅白のカラーをしていて、
しかも、クレーンでつり上げられた。
その名もデルタアンテナ。
以前にも、ここでその建設過程を紹介したが、
その立ち上げがちょうどクリスマスの今日となった。
天候や風などの条件も整った。
クレーンを操作するオペレーターや、
高所作業の職人たちの一挙手一投足に、
基地中の視線が集まった。
せっせと除雪してアンカーの場所を見つけた隊員たち、
部品を組み立てた隊員たち、
ワイヤーを張った隊員たち、
1個1個ボルトを締めた隊員たち、
毎晩、互いをねぎらい合ってきた隊員たち、
みんなみんな一致団結して応援した。
調理隊員は、今日のディナーに
ベーコンハンバーグ(紅)とクラムチャウダー(白)のスープを用意していた。
「デルタ立ち上げ」をみんなで祝う54次隊より、
世界の平和を願って、メリークリスマス!“… 続きを読む...
今日は海氷上訓練が行われた。
足下は凍っているとは言え、その下は海。
ひとたび海氷上に足を踏み入れると、
その状態は、かなり複雑なのがすぐにわかる。
タイドクラックと呼ばれるクレバスのような深い割れ目や
プレッシャーリッジという大きな起伏があるのだ。
真っ平らな氷のスケートリンクとは違う。
しかも、厚さ2〜4mもの厚い氷は、
一見、安定しているように見えて、
実は、気温や水温や太陽光、さらには波の振動なども加わって
常に変化している。
今日の訓練では、
ゾンデ棒と言われる長い棒を雪面に差し込みながら
慎重に何度もタイドクラックをまたいだが、
そのわずかな隙間の底が
まったく見えなかった。
まさに手に汗にぎる瞬間の連続。
通常の訓練という概念を遥かにこえた
実践的教訓となった。“… 続きを読む...