ゾンデ放球のさじ加減(vol.63)

今日は、快晴の昭和基地。
昨日、ひょんなことからお知り合いになった53次越冬隊の気象隊員から、
「明日にでもゾンデ放球は可能ですよ」とお話をいただいた。
翌日の今日、予約を済ませ気象棟に行ってゾンデ放球を試みる。

ゾンデとは、気象庁隊員が
第1次隊から継続している伝統的な大気観測の一つ。
ヘリウムガスで膨らませた気球に、
データを取って送るゾンデをぶらさげて
約30km上空まで飛ばすという。
その速さ6m/秒。

そんな一連の説明を受け、さっそくゾンデを放球。
ゾンデは無事、大空に舞い上がっていった。
この日は、ちょうど太陽の周りに虹ができるハローが見られ、
その虹の輪の中を通り抜けるように気球は舞い上がっていった。
それが小さくなって見えなくなるまで見上げていた。

さて、この気球につめるヘリウムガスの量はどのように決めているかな?とふと思った。
注入した気体の量で決めるのか、
膨らんだ風船の大きさできめるのか。
実は、浮力で決めていたのだ。
ガスを充填しながら、風船の下に1800gのおもりをつけ、
それがふわっと浮き上がったときが充填完了の合図。
そういうことは、放球の準備から経験して初めてわかることだった。

ゾンデを放球したあとは、
オゾンホールの発見につながった観測部屋ものぞかせてもらった。
4畳半程度の狭い部屋の中で大発見があったのかと思うと
研究の華々しさと地道さを感じずにはいられなかった。

夕食後、54次の気象隊員と話をした。
その中で、こんな言葉があった。
「ゾンデは浮力1800gで飛ばす、確かにその通り。
 でも、風が強ければ、できるだけ早く一定の高さに送るために浮力350g…
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デルタアンテナ設営(vol.61)

昨日の夜は、真夜中になっても寝付けなかった。
それは、やや興奮気味だったせいもあるが、
百夜の南極では、真夜中の12時をすぎても、
まるで昼間のように明るいのだ。
部屋の窓が開いていれば、電気をつけなくても
字を書いたり、ものを探したりすることは難なくできる。
朝、目覚めたときは、
昨日寝たときと同じ明るさの風景だった。

さて、今日の作業は、デルタアンテナの設営。
今回建設するデルタアンテナは、
高さ40mの支柱を中心にして三角の形にアンテナを張ったもの。
1本のアンテナを立てるためには
その周囲に高さ約5m〜7mの支柱を4本立てなければならない。
今日は、そのうちの2本を立ち上げることができた。
これも、設営系の現場監督の指示のもと安全第一で作業できたおかげ。
はじめはなれない作業も多く手間取っていた隊員たちも、
プロの現場監督さんたちが注意深くサポートしてくれるため、
その手際はどんどんよくなっていった。

ここでは、みんなで協力し、
すべて手作りでものを作り上げていくしかないのだ。

遠くでは、ペンギンたちの姿も見え、
少々疲れ始めた隊員たちに元気をくれた。
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リュツォフォルム湾定着氷域 (vol.55)

昨日、しらせが流氷縁に到達したと書いたばかりだが、
昨夜、しらせは予想外のはやさでその流氷域を通過した。
流氷域の突破には普通は数日かかるのだが、
JARE54では、ほぼ1日で抜けたことになる。

それは同時に、定着氷域に進入したということ。
リュツォフォルム湾定着氷域だ。

ここまで来ると、帰りの航海まで
しばらく海面を見ることはない。
ずっと、真っ白な世界があるだけだ。

ほどなくして、
しらせはファーストラミングを試みる。
定着氷で船が進めなくなると、
一旦、来た道を100m〜200mほど後進し、
再び勢いをつけて砕氷しながら進んでいくのだ。
3歩進んで2歩下がる、という感じ。

砕氷航行中は、常にゴッゴッゴッゴッゴッという振動が伝わる。
時折、
ゴリンゴリンゴリンッ(非常階段からドラム缶を転がしたような音)、
バリバリバリバリッ(地下鉄が突然トンネルの中に入ったときのような音)
ジャバジャバジャバーッ(嵐の森で強い雨と風にうたれて揺れる木々の音)
という、なんとも言いようのない”ものすごい音”が響くことがある。
そんなときは、隣の隊員と会話することすらできなくなる。
この、海に厚く張り詰めた氷から出てくる”ものすごい音”が、
おそらく、私が聞いたまず最初の「南極の音」だと言えるだろう。
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