今日は、快晴の昭和基地。
昨日、ひょんなことからお知り合いになった53次越冬隊の気象隊員から、
「明日にでもゾンデ放球は可能ですよ」とお話をいただいた。
翌日の今日、予約を済ませ気象棟に行ってゾンデ放球を試みる。
ゾンデとは、気象庁隊員が
第1次隊から継続している伝統的な大気観測の一つ。
ヘリウムガスで膨らませた気球に、
データを取って送るゾンデをぶらさげて
約30km上空まで飛ばすという。
その速さ6m/秒。
そんな一連の説明を受け、さっそくゾンデを放球。
ゾンデは無事、大空に舞い上がっていった。
この日は、ちょうど太陽の周りに虹ができるハローが見られ、
その虹の輪の中を通り抜けるように気球は舞い上がっていった。
それが小さくなって見えなくなるまで見上げていた。
さて、この気球につめるヘリウムガスの量はどのように決めているかな?とふと思った。
注入した気体の量で決めるのか、
膨らんだ風船の大きさできめるのか。
実は、浮力で決めていたのだ。
ガスを充填しながら、風船の下に1800gのおもりをつけ、
それがふわっと浮き上がったときが充填完了の合図。
そういうことは、放球の準備から経験して初めてわかることだった。
ゾンデを放球したあとは、
オゾンホールの発見につながった観測部屋ものぞかせてもらった。
4畳半程度の狭い部屋の中で大発見があったのかと思うと
研究の華々しさと地道さを感じずにはいられなかった。
夕食後、54次の気象隊員と話をした。
その中で、こんな言葉があった。
「ゾンデは浮力1800gで飛ばす、確かにその通り。
でも、風が強ければ、できるだけ早く一定の高さに送るために浮力350g… 続きを読む...
昨日の夜は、真夜中になっても寝付けなかった。
それは、やや興奮気味だったせいもあるが、
百夜の南極では、真夜中の12時をすぎても、
まるで昼間のように明るいのだ。
部屋の窓が開いていれば、電気をつけなくても
字を書いたり、ものを探したりすることは難なくできる。
朝、目覚めたときは、
昨日寝たときと同じ明るさの風景だった。
さて、今日の作業は、デルタアンテナの設営。
今回建設するデルタアンテナは、
高さ40mの支柱を中心にして三角の形にアンテナを張ったもの。
1本のアンテナを立てるためには
その周囲に高さ約5m〜7mの支柱を4本立てなければならない。
今日は、そのうちの2本を立ち上げることができた。
これも、設営系の現場監督の指示のもと安全第一で作業できたおかげ。
はじめはなれない作業も多く手間取っていた隊員たちも、
プロの現場監督さんたちが注意深くサポートしてくれるため、
その手際はどんどんよくなっていった。
ここでは、みんなで協力し、
すべて手作りでものを作り上げていくしかないのだ。
遠くでは、ペンギンたちの姿も見え、
少々疲れ始めた隊員たちに元気をくれた。“… 続きを読む...
しらせからヘリで約10分。
本日午前、昭和基地入りした。
昭和基地のAヘリポートで私たちは、
真っ黒に日焼けした越冬隊のみなさんの笑顔で
迎え入れられた。
基地の周囲の海は全て凍りついていて、
周辺はどこを見回しても緑一つない。
ごつごつした大小さまざま岩たちがあちこちに転がっているだけ。
よく見ると、すべてある方向に筋が入っていたり、
異様なくぼみや穴があちこちに見られたりする。
そんな昭和基地を例える言葉は人それぞれ。
ある人は、「むき出しの地球」と呼び、
またある人は、「まるで工事現場のよう」と言う。
私は、ちょっと小高いみはらしのよい場所にたった時
「火星か月面に着陸したみたいだ」そう思った。
“… 続きを読む...
しらせから昭和基地へ
今日、第一便が飛んだ。
この第一便でまず最優先に運ばれるものは
いかにも南極観測隊らしいものだ。
それは、
研究のための機材ではなく、
基地建設のための資材でもない。
越冬している53次隊員一人一人宛ての
家族からの手紙だ。
それに、しらせや54次隊からの
心ばかりのごちそうが添えられる。
南極で越冬したことのある経験者は、
やはりこれが待ち遠しいのだという。
何しろ、
1年以上の長期にわたって、
わずか30人程度で
基地を維持し、観測を継続してきているのである。
そのご苦労は計り知れない。
今日ばかりは、一息ついて家庭のぬくもりを味わっていただきたいものだ。
とはいうものの、実際は、
大量の物資の荷受けや除雪作業などで
昭和基地はもっと忙しくなっている。
“… 続きを読む...
昨日、しらせが流氷縁に到達したと書いたばかりだが、
昨夜、しらせは予想外のはやさでその流氷域を通過した。
流氷域の突破には普通は数日かかるのだが、
JARE54では、ほぼ1日で抜けたことになる。
それは同時に、定着氷域に進入したということ。
リュツォフォルム湾定着氷域だ。
ここまで来ると、帰りの航海まで
しばらく海面を見ることはない。
ずっと、真っ白な世界があるだけだ。
ほどなくして、
しらせはファーストラミングを試みる。
定着氷で船が進めなくなると、
一旦、来た道を100m〜200mほど後進し、
再び勢いをつけて砕氷しながら進んでいくのだ。
3歩進んで2歩下がる、という感じ。
砕氷航行中は、常にゴッゴッゴッゴッゴッという振動が伝わる。
時折、
ゴリンゴリンゴリンッ(非常階段からドラム缶を転がしたような音)、
バリバリバリバリッ(地下鉄が突然トンネルの中に入ったときのような音)
ジャバジャバジャバーッ(嵐の森で強い雨と風にうたれて揺れる木々の音)
という、なんとも言いようのない”ものすごい音”が響くことがある。
そんなときは、隣の隊員と会話することすらできなくなる。
この、海に厚く張り詰めた氷から出てくる”ものすごい音”が、
おそらく、私が聞いたまず最初の「南極の音」だと言えるだろう。“… 続きを読む...
本日未明に、しらせは流氷縁に進入した。
流氷縁とは、海面のあちこちに
流氷が漂い始める境のようなところ。
船内では、事前に
「明日には流氷縁に入る」
という予報が出されていた。
だから、昨日の夜は、
明日はきっと初雪が積もるぞ、とわくわくしながら眠った
そんな子供の頃と同じ気持ちでベッドに入った。
夜中の3時過ぎ、
ゴロゴロゴロゴロという雷のような、
低い地響きのような、そんな音で目が覚めた。
船は小刻みな揺れていたが、
それは、昨日までの波の揺れとは明らかに違っていた。
「来た?!」
すぐにベッドから飛び起きた。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
海が昨日までとはまるで変わっていた。
見渡す限り漂っている大小無数の流氷は、
船体に当たっては、ゆっくりとひび割れながら
後方へと流れていく。
そういうことが幾度となく繰り返されながら
しらせはただただ力強く南大洋を突き進んでいく。“… 続きを読む...