ゴムボート作戦

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの57回目。
(写真は54次隊のときのもの)


その頃、対岸では二人乗りのゴムボートの
組み立てが始まっていた。
まさか、池に浮かべて漕ぐのか?
と思った方も多いと思うが、
その、まさか、である。
ボートでなければならないわけは主に2つある。


一つは、今回の最大の目的である
コケボウズを採集するため。
この写真の装置を
池の中央から底にむかってまっすぐに沈め、
コケボウズをキャッチして
再び引き上げるという作戦だ。


もう一つは、もしかしたらこの池に
他にもまだ見つかっていないような小さな生物が
いるかもしれないという知的好奇心を確かめるため。
ボートにネットをくくりつけて、
あとはそれを引っ張りながら
縦横無尽に漕いで、漕いで、また漕ぐ、という作戦だ。

その時間、なんと2時間。
この池に向かった6名の隊員が
20分交代でボートに乗船した。
途中、あるトラブルもあり、
さらに1時間ほど追加となったのも今ではいい思い出か。

それだけしても、
あいにくプランクトンネットの網にかかるような生物は
視認できなかった。”… 続きを読む...

コケボウズの住む池

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの56回目。
(写真は54次隊のときのもの)

スカルブスネスにはたくさんの池がある。
その池の底には、謎の生物が住んでいることがわかっている。
その名もコケボウズ。


この日、私たちはその池を目指した。
背中の背負子にそれぞれ15〜20kgの機材をくくりつけ、
片道約2時間の山を登ったところにその池はあった。
ここまでずっと見える景色はさほど変わらなかったが、
不思議と、いつまで見ていても
飽きることがなかった。


池に到着するとさっそく池の周辺に沿って歩いてみる。
中に足を踏み入れることができそうな浅瀬を見つけると、
ひとまずそこから土壌を採取することになった。
ちょうと真正面には、あのシェッゲの姿があった。
こうして離れて見てみると、
その切り立った様子が一段とよくわかった。


池の水はとても澄んでいた。
浅瀬はもちろん、深いところでも
底までしっかり見えてプールのようだった。
しかし、そのことはこの池が極度の貧栄養であることを物語っている。
生物にとっては生きにくい環境だということは
誰の目にも明らかだった。

それでも、もしかしたら
バクテリアとかマイクロプランクトンの仲間がいるかもしれない、
と期待しつつ、生物チームのリーダーが
静かに採集を始めた。”… 続きを読む...

スカルブスネス

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの54回目。
(写真は54次隊のときのもの)

今回の野外行動は、スカルブスネスという場所へ行ってみたい。


スカルブスネスにはきざはし浜観測拠点というのがある。
周囲は入り組んだ湾に囲まれていて、
天候が穏やかな日は、
どこかのどかな湖畔にやってきたかと思うような場所。
一日中、作業は続くが、
地球とずっと向き合っているという感じが好きだった。


小屋の目の前にはこの絶景。
海面からほぼ垂直に立ち上がる400mの断崖絶壁が
黄金色に輝いているのだ。
その山はシェッゲと呼ばれている。
一瞬、一日中吹いている風が収まり波立たなくなると、
とたんに海面は鏡となって、その勇姿を映し出すことがある。


これから、ここスカルブスネスはきざはし浜に
キャンプを張っていくつかの調査に出かけることになっている。
その一つが、謎の生物「コケボウズ」の採集。
池の底に住むというそれは、
私たちの目の前に姿を現してくれるのか。
幸い、明日の天候は快晴のようだ。”… 続きを読む...

おにぎりの力

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの53回目。
(写真は54次隊のときのもの)

ここ数回は、昭和基地での様子をバーチャル同行してきたが、
そろそろ再び野外に出る頃になってきた。
地圏グループや生物グループにとって
昭和基地で過ごすのは限られた時だけで、
野外にある観測拠点で活動することがどうしても多くなる。

そろそろ、もう一つの野外観測拠点に行ってみたいと思う。

だがその前に、ちょっと準備することがある。
それは、夕飯の残りのごはんでおにぎりをたくさんこしらえること。


一旦野外に出ると、
3〜4日戻らないことはよくあること。
食事はどうしてもレトルト系が多くなる。
おいしい炊きたてごはんはしばらくおあずけとなるので、
出発の前日には、こうしてみんなでおにぎりを準備する。
これが、意外にも野外では元気のエネルギーになる。

特に、野外初日は、居住の立ち上げや物資搬入などで煩雑になるので、
おにぎりたちの存在はとても助かるのだ。

そういえば、
ヤンキースで活躍した松井秀喜選手は
試合前にはよくおにぎりを口にしていたという。
好物はおかかと梅だったとか。

また、ソチオリンピックに出場する田畑選手は、
実家で作っているお米を試合前に食べて力にするのだと
いつかのインタビューで語っていた。

観測隊員たちも、みんな
お米を炊いて握ったおにぎりが大好きなのである。

このおにぎり作り、
どうやら55次隊でも、欠かせないみたい。”… 続きを読む...

スチールコンテナの中身

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの52回目。
(写真は54次隊のときのもの)

前回に引き続き、
昭和基地のようすをバーチャル同行。
55次隊のみなさんも今頃は昭和基地で夏作業に汗を流していることだろう。


たとえば、こういうのも夏作業の一つ。
越冬物資をひとつひとつ基地に運び込むのだ。
写真からみてこの日の作業の中身は、食料品だったようだ。
段ボールはいつものように「バケツリレー」スタイルで運搬。
時折、こうして流れが止まることもあるが、
それがつかの間の休憩時間となる。


何しろ運び込む量ははんぱじゃない、ほら。
スチールコンテナの山、山、山。
このコンテナの中に、隊員たちが一年間で消費する食料が入っている。
その一つ一つを取り出しては、所定の場所にまた格納していく。
こんな作業をしながら思う。
人間って自分の体の何倍もの食事をとるんだな、と。

55次隊では、しらせが積み込んできた全ての荷物の搬入を終えたという。
53次、54次と連続して、しらせが接岸断念を余儀なくされていたので、
船の上で日本と南極を3往復したものもあることを思うと、
運搬完了はとても意味深い。
運び込まれた物資のおかげで、観測活動や設営作業が急ピッチで進むだろう。

運び込まれたあとの隊員たちの作業は一段と大変になるが、
隊長の指示のもと、安全に完遂されることと確信している。”… 続きを読む...

休日の過ごし方

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの51回目。
(写真は54次隊のときのもの)

久々に昭和基地に戻ったので、今回は、
昭和基地での休日日課のようすをバーチャル同行してみたい。


この日は、休日日課ということで魚釣りに出かけた。
(休日日課といっても、午前にはいつもの作業があったが。)
まずは、「釣り道具」をスノーモービルに積んで
目的の場所まで走る。
積み込んだ「釣り道具」の大半は、
海氷に穴をあけるための大型のドリルだ。
あとは釣り竿数本とえさ少々。


周囲を四角の形に掘った後、ドリルで穴を開けていく。
足下から澄んだ水がわき出てくるが、これはまだ海水ではない。
氷の間からしみ出てくる、いわばわき水だ。
もとをたどれば、この水、
海面から蒸発し、雪や氷となって堆積したものが
再び水となって厚い氷の中から無限にわき出てくる超・軟水だ。


このあたりの氷の厚さは、約4メートル。
途中、ドリルの長さがたりなくなると、
こうして一旦引き上げて、ドリルを継ぎ足し、
再びドリルで穴をあけていく。
こうしたことを4回くりかえしたところで
ようやく海水まで達した。


この時点で、すでに達成感はかなりあったのだが、
本当の目的はこれ。
さっそく釣り竿とえさを準備する。
釣り方は簡単で、糸をず〜っと垂らしていって、
底についたら少しずつ引き上げる、それだけ。
あとは、おめあてのショウワギスが食らいつくのを気長に待つ。
“… 続きを読む...

昭和基地の郵便局

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの50回目。
(写真は54次隊のときのもの)

野外での活動から久々に昭和基地に戻る。

今回は、その昭和基地内の様子を
バーチャル同行してみたい。


これは町でよく見るおなじみのマーク。
だが、この写真はまぎれもなく昭和基地内のもの。
そう、昭和基地には郵便局があるのだ。
ただし、ここに郵便物が毎日届けられるわけではもちろんない。
ここから郵便物が毎日配達されるわけでもない。

では、ここでは何をしているのか。

実は、「しらせ」が日本を出港するとき、
日本からたくさんのはがきを預かってくる。
その数、数千枚。
そのはがきは、ここ昭和基地郵便局にしっかりと届けられるのだ。

昭和基地で活動する隊員たちも、
時折、ここに来てはがきを投函することができる。
私も、学校の子供たちから預かってきたはがきを
ここにあるポストに投函した。

集まったはがきは、
昭和基地郵便局の局長を命ぜられた隊員が
一枚一枚心を込めて消印を押す。
そして、再びしらせがそれらを日本へと送り届けるのだ。

一年に1往復しかしない特別の郵便。
とてもゆっくりとした特別の郵便。
往復約3万km、地球を3/4周分を旅する特別の郵便。
そんな夢のような郵便局が、
ここ昭和基地内にあるのである。

きっと、今年も55次隊のみなさんに
自分のはがきを託した人もいるだろう。
今頃、そのはがきは、
ここ、昭和基地郵便局の中に届いていることだろう。
それが、4月に手元に戻ってくるのが楽しみだ。

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白夜の黄昏の中で

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの49回目。
(写真は54次隊のときのもの)

夕食後からみんなで取り組んだ作業は、
いよいよ終盤にさしかかった。


作業の合間に、時折遠くを見つめてみる。
周囲には、真っ白に凍り付いた海面がただ見えるだけ。。。。。
そんな中で、7人の隊員が
小さな建造物を必死で組み立てている。
そう思うと、自分の存在の小ささを思い知ったと言うよりは
むしろ、「ぼくはここにいる」という存在を強く実感した。


無理かと思われたサイズ違いのパネルの取り付けは、
枠組みに加工を加えることですこぶる順調に進んだ。
「サンダーで切り込みを入れる」というあの作戦は、
どうにもできないようなことでも、どうにかしてしまった。
「やってみなはれ」という第一次西堀越冬隊長の声が、
すぐ近くで聞こえたような気がした。


そのせいか、この最終局面で隊員たちの気持ちはさらに引き締まった。
最後まで、決して気をぬくことなく、
丈夫で、かつ美しくなるようにと
その仕上がり具合にはこだわった。
今度ここに隊員たちがやってくるまで、がんばれよ。
そう心でつぶやいていた。


夜の11:00過ぎ、ついに作業は完了した。
白夜の南極の黄昏の中で、
私たちは大きな歓喜と
何とも言えない充実感に包まれていた。
山を降りる前に仲間と撮影したこのワンショットは
私の心の中に永遠に焼き付けられた。
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トラブル解消

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの48回目。
(写真は54次隊のときのもの)

ベテラン隊員の一言はとても説得力があった。

きっと私たちが、遅れを取り戻そうとして
慌てて作業をするだろうと見抜いていたのかもしれない。
あるいは、
あのときの自分たちには決して自覚できていない
それまでの疲労感を察知していたのかもしれない。

一度、頭を冷やして無理をせず、
いつも冷静な判断で落ち着いて取り組む。
南極では、それが鉄則だと知った。

そのころ、観測小屋からは、
リーダーからの暖かい言葉が無線で入ってきた。
「夕食の準備は整いましたよ〜。」
私たちは、すっかり心の余裕を取り戻し、
一旦、山を降りることにした。

再び山を登り始めたのは、午後8:30頃だったか。
今度は、メンバー7名全員が一緒だった。
新しいアイデアを実行するための電動工具サンダーと、
発電機、燃料を、それぞれ手分けして運び込んだ。


さっそく、作業を再開した。
ベテラン隊員が提案したアイデアは見事うまくいった。
ドリルで新しい穴を開けられないのなら、
まずは、今ある場所にねじだけを取り付けて、
その位置に合わせてパネル側にサンダーで溝をほり、
スライドさせるようにして基台にはめ込むというのだ。


行程を理解したメンバーは、それぞれの役割に没頭した。
発電機を回す者、
パネルを運んで取り付ける者、
サンダーを入れる場所に印をつける者、
サンダーで切り込みを入れる者。。。
作業は時を忘れての総力戦となった。


体力は復活し、気力は充実していた。
集中力も途切れることはなかった。
ペースもみちがえるほどはやくなっていた。
そして何より、
互いのコンビネーションが絶妙に合い始めていた。
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トラブル発生

第55次隊の南極観測活動に合わせた
バーチャル同行シリーズの47回目。
(写真は54次隊のときのもの)


破損したパネルは、無事、安全に取り外された。
一方、新しいパネルを取り付けるための下準備も整った。
あとは、元の枠組みに戻すだけだった。
作業工程も確認済み。
天候も申し分ない。
完成は目前だった。


さっそく、枠組みに取り付ける作業に入った。
と、ここである問題が発覚した。
枠組みとパネルのサイズが微妙に違うのだ。
上下を入れ替えても、左右を反対にしても、
もう1枚の方を当てはめてみても、どうしてみても、
ぴったりと収まらず、ビスと穴の位置がずれてしまうのだ。


すぐに、道具箱の中のあらゆる道具を取り出し
懸命に修復を試みた。
ドリルを借りて新たな穴を開けようと、
一旦山を下って、別の場所にいる隊員の所まで行ったりもした。
それで何とか1つは穴を開けられたが、
材質に合う刃ではなかったのでかなりの時間を要した。

穴は全部で20〜30カ所もあったので、
この方法では無理だということは誰の目にも明らかだった。
私たちの作業ペースは一気に下がった。
だが、あきらめるわけにはいかなかった。
気がつけば、もう夕食の時間になってしまっていた。

その時、一人のベテラン隊員が
こちらの山に向かって登ってくるのが見えた。
なかなか山を降りてこない私たちを心配して、
トラブルの様子を詳しく見に来てくれたのだ。

ベテラン隊員にこれまでの経緯を伝えた。
すると、しばらく考えた後、
あるアイデアを提案した。
それは、これまでにないアイデアだった。

よし、それならなんとかなるかもしれない、
みんながそう思った。

しかし、その隊員はこう続けた。

「とにかく今は、一旦山を降りようや。
 このまま作業を続けるのは得策じゃない。
 ひとまず山を降りて夕飯を食べてこようじゃないか。
 あとでまた登ってこればいいよ。
 こんどはみんなもいる。」

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